不義の澱

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 14年前、信じられないほど豊かだと思ったメルカ国が堕ちる。アルスカはしばしその現実を飲み込めなかった。  アルスカが睡魔の中でぼんやりと考え事をしていると、部屋にノックの音が響いた。 「フェクス、キタ」  東方系の顔立ちの男がたどたどしく、そう告げた。彼はみすぼらしい服を着て、右手に箒を持っている。アルスカは彼に礼を言って宿の入口へ向かった。  宿の薄汚れた扉の脇に、フェクスは立っていた。アルスカはその顔を見て、苦笑いをした。  その昔、学友の間で美少年と名高かったフェクスであるが、十数年の月日で丸い頬が削げ、指が節くれ立って、目じりには皺ができていた。この国でありきたりな赤毛の髪には白いものが混ざり、碧眼までもがくすんでしまったように感じさせる。  それでもフェクスがこちらにくしゃっとした笑顔を向けると、青年のときを共に過ごした鮮やかな記憶が一気に蘇り、アルスカは懐かしさで胸がいっぱいになった。 「長旅だったでしょう。疲れていませんか」  フェクスは丁寧な言葉を使った。それでアルスカも思わず他人行儀に返した。 「もう十分休みました」 「いつ着いたのですか?」
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