不義の澱

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 歳をとると円滑な人間関係構築のためのいくつかの技術を自然と身に着けられると思っていたが、そうでもない場合もあるようだ。アルスカは青年時代となんら変わらない奔放な男に安堵を覚えた。  変わってしまった街で、変わらない友人がまぶしかった。  このフェクスという男はかつて大学で政治を学んでいた。若いころのフェクスは野心家の片鱗を見せていたが、その失言の多さから敵が多く、学生時代に大きな実績を残せなかった。  しかし、アルスカたち留学生にも平等に接し、文化を学びたがるような節もあったため、決して政治家に向いていないわけではないとアルスカは思っていた。むしろ、フェクスのような男が失言癖を治して政治家になってくれれば、きっといい未来があると思ったくらいだ。  アルスカは尋ねた。 「フェクスはここで何の仕事を?」 「軍の仕事を手伝って食いつないでる」  その言葉に羞恥が含まれていることにアルスカは気が付いた。  大学時代、2人の青年は壮大な夢を語ったものであった。フェクスは政治家になると息まいていた。それが14年後、ただ日銭を稼ぐだけのくたびれた壮年になってしまったのだ。
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