不義の澱

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14年も愛を囁き合って寝食を共にしたとしても、縁が切れるときは一瞬だということをアルスカは知った。  彼は最愛の人だと思っていた恋人に最後の手紙を残すつもりでペンをとったが、この感情を言い表す的確な言葉がないことに気が付いた。この感情を伝えるべく言葉を尽くしたならば便箋が100枚あっても足りない。  結局、彼はただ別れの言葉と、2人で貯めた金の半分を貰う旨を書いた。  アルスカはこのガラ国で恋人と14年暮らした。彼の恋人――ケランは男である。それでも、男女の夫婦と何ら変わらずに愛し合っていた。  半年ほど前から、ケランの帰りが遅くなることが増えた。ある日、どうしても不審に思う気持ちを抑えきれず、アルスカは恋人を尾行した。このとき、アルスカには確信に似た直感と、どうか誤解であってほしいと願う気持ちがあった。しかし、アルスカは見てしまった。  14年間愛し合ったケランは、仕事場から出ると、その足で見知らぬ男と合流した。2人は手をつなぎ、頬を寄せ合った。愕然とするアルスカの目の前で、その影は宿に消えていった。
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