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エルドラは、部屋にこもりきりで書類仕事をしていた。
カーテンをしめきっていて、空気がこもってカビ臭い。ジメジメして、室内なのに苔とキノコが生えそう。
魔族は暗くて冷たくて湿り気のあるところが好きなのかというと、そういうわけではない。
この城の、エルドラの部屋以外はきれいだから。
みんなに聞くと「エルドラ様のお部屋には近づけないのです」と。
「なに。仕事をしたい?」
「ええ。何かさせて」
「仕事をしたいというが、何ができるのだ?」
「わからないから、とにかく何でもやってみたいの」
手をすり合わせて懇願すると、エルドラは迷い、視線を部屋の中に移す。
私の部屋はメイドが掃除してくれているからきれい。
この部屋は掃除されていない。ホコリだらけだ。
「ねえエルドラ。誰もここを掃除しないの? 王の部屋なのに?」
「波長の問題だ。強すぎる魔力は毒になる。……我の魔力は、同族の魔族にとっても毒になる。みな当てられて、長くここに居られない」
「? 私は平気よ」
「其方が聖女だからこそ、だ。聖なる力は魔の耐性を持つ。前の其方もそうだった」
力の弱い魔族はそばによるだけで具合が悪くなるらしい。
他の者のためにも、極力ここを動かない。
寄せ付けないのではなく、誰も寄り付けない。
エルドラは、望んだわけでもないのに誰もそばにいられなくて、一人になる。
だからこそ魔族ですら倒せない、孤高な王なのだ。
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