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胸に耳を当てると、エルドラの心音がする。人間のものより鼓動が遅い。竜族、だからなのかな。
種族が違うから、心拍数は人間のそれと違って当たり前。
「歴代聖女は、みな二十歳にもならず死んでいった。治癒魔法の代償は、己の命だからだ」
思いもよらない言葉に、背筋が寒くなる。
奇跡の力は無制限に使えるわけではない。万能の力ではない。
「傷を治せば治すほど、其方たち聖女は寿命を縮める」
「本当なの?」
「だから、おばあさんになりたいと思うのなら、もう魔法を使わないと約束してくれ」
魔法を使うな、と言うのはエルドラが私を案じるがゆえだった。
何も知らないこれまでの十七年で、何度も囚われ、治癒魔法を使わされてきた。
名前も知らぬ、私を粗末に扱う誰かのために、命を削ってきたというの?
知っていたなら、絶対、あんな人たちのために使ったりしなかったのに。
私の命は、あと何年残されているの?
もしかしてもう何も残されていない?
かすり傷一つでも治したら、そのまま死んでしまうのかもしれない。
こんな不幸な人生早く終われと思っていたのに、エルドラの言葉を聞いて終わりが来るのが怖くなった。
次の私なんて、来なくていい。
まだ死にたくない。生きていたい。
一日でも長くこの人のそばにいたい。
「約束するわ。エルドラ。もう魔法は使わない。だから、いつかおばあさんになった私を看取って」
「……約束しよう」
エルドラの背に手を伸ばす。エルドラの体温はこんなにも心地良い。エルドラの腕が、私の背を撫でる。
魔王と聖女。
本来なら敵対するはずの存在。
聖女失格と言われると思うけれど、私は、人間よりもこの人を守りたい。
私は、エルドラを愛している。
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