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エルドラのそばで暮らすようになって半年が経ち、城内が慌ただしくなった。
人間の連合軍が、千を超える軍を作り魔族の国に攻め込んできた。
聖女を拐かした悪しき魔王から、聖女を取り戻すのだと言って。
勇者だと祭り上げられた青年が陣頭に立つ。
バカにも程がある。
自分たちは私を道具として奪い合い、互いの国に攻め込みあっていたのに。魔族のもとにいるとわかった途端にこれ。
きっとどこかの国が私を保護したら、私を保護した国と、そうでない国が刃を交える。
奇跡の力で自分たちに恩恵を。
死に至る傷すら治せる聖女を自分の軍に。
欲望が見え見えだ。
魔族の軍が出撃して、人間の軍を打ち倒していく。
魔族も人間も戦いで疲弊していく。
私を助けるためなんていうのは表向きだけで、人間はきっと、魔族の領土が欲しいだけ。
魔族の地は、人の地よりも緑豊かでずっと肥沃だから。
人との戦いが始まってひと月、エルドラが鎧を身にまとった。
力の差を考えればエルドラが勝つのは必然に思える。けれど、絶対はない。
「我が出るのが一番手っ取り早い」
「それは危険じゃないの?」
同族の人間より、エルドラの心配をしている。滑稽かしら。
「其方はなにも心配するな。我がいつ戻ってもいいよう、部屋をきれいにしておいてくれ。其方が言うように、掃除された部屋は過ごしやすくていい」
冗談をいう余裕があるなら、安心していいのかしら。
エルドラは空を舞い、竜族の部下たちと出撃していった。
不安だけど、エルドラが気持ちよく帰ってこれるように掃除をしよう。
きちんとしようと思うのに、気がそぞろでいつもならしない失敗をしてしまう。
バケツを倒してしまい、水が散る。
メイドたちが私の心配をする。
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