冷遇された聖女は孤高な魔王の寵愛で甘く溶かされる

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「大丈夫ですよ、サラヴィエ様。陛下はこの数百年、人間との戦いで負けたことがないのです」 「そ、そうよね。ありがとう」  料理人の手伝いをして、出撃したみんなのための料理を作る。  魔法を使わず、エルドラのためにできることがこれくらいしかない。  治癒魔法という力を使わない私は、なんの役に立たない小娘に過ぎないのだと実感する。  二日後の、夕日が地平線に沈む頃、魔族のみんなが城に帰還した。  満身創痍という言葉がぴったり。  エルドラと部下が奮戦し、連合軍は壊滅。魔族の完全勝利で終わった。  兵のみんなが「さすが魔王様だ」と言っていた。  エルドラは、さすがに大群を前に無傷とはいかなかったようで、全身傷だらけだった。 「エルドラ!」  エルドラが開け放っていたバルコニーに真っ黒で巨大なドラゴンが降り立つ。  人の形をしていなくても、私にはそれがエルドラだとわかった。  鱗はところどころ刺され、血が滲んでいる。  おびただしい出血が痛々しい。  魔法を使わないと約束していたけれど、この傷は放っておくと致命傷になりかねない。直感する。 「これくらい、治癒魔法を使えば……」 「やめろ、サラヴィエ」  ドラゴンの姿だから、エルドラの声はいつもより低くくぐもっている。 「我の治療は、人間を治すより、いっそう命を消耗する。下手をすれば、其方の命は今日尽きる。おばあさんに、なりたいのだろう」 「私だけが永らえても、貴方がそこにいなくては、なんの意味もないわ」  自分の命が消えることよりずっと、エルドラの命が尽きることのほうが怖かった。  これまで人間の国で魔法を使わされたとき、傷つく兵たちを見てもなんとも思わなかった。  何で私がこの人たちのために囚われて魔法を使わなければならないのかと、恨んでいた。  初めて、心から誰かを癒やしたいと思った。 「魔法は使うな。其方には長く生きてほしい」 「エルドラ……。自分が死ぬかもしれないのに、どうして傷を癒やしてくれと言わないの」 「其方が死ぬのを、見たくない」  エルドラだけは失えない。エルドラがいなくなったら私の命に意味はなくなる。  布を押し当てても、一瞬で真っ赤になってしまう。  私の力なら、完治させることだってできるのに。 「これくらいすぐ治る。だから、大丈夫だ。魔法を使わないでくれ」  エルドラは普段の、人に似た姿に戻って膝をついた。翼はボロボロ、見るも無残。  私はエルドラを抱きしめて、部屋にかつぎ込んだ。  医務官に手当の方法を聞いて止血し、キズ薬を塗り、薬湯を作る。  エルドラが自然治癒をしたいというなら、治るまでそばにいる。  毎日包帯を替え、薬湯を作り、蒸しタオルで体を拭く。
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