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それからさらに三月。
自分で宣言したとおり、エルドラは一人歩けるくらいに回復した。
けれど、右の翼は折れ曲がったままで、もう飛べない。
私の魔法を使えば飛べるようになるのに、それを望まない。
なんて優しくて愚かな人だろう。
人の国に戻らないと決めた私も、とても愚か。
エルドラと出会ってからニ年。
人間の国はどうか知らないけれど、魔族の国は平和そのものだ。
庭に行きたいと言うと、専属の侍女が焦りだす。
「奥方様、ご無理はなさらないでくださいませ。体に障ります」
「大丈夫よ。今日は気分がいいの」
城の庭園は手入れが行き届いていて、きれいな花が咲いている。
花束を作ってもらい、抱えてエルドラの部屋に向かう。
「エルドラ、見て。今日もきれいに咲いたのよ。飾りましょう」
「サラヴィエ、あまり出歩くなと言ったのに」
「自由に生きていいと言ったのは貴方でしょう」
エルドラが最初の頃の発言と矛盾したことを言い出す。
「其方一人の体でないのだから、案じるのは当然だろう」
「心配性なパパねぇ」
長い歴史の中で、子を宿した聖女はいなかったと聞く。
命を削りすぎて親になれる年齢まで生きていられなかったからだと思う。
聖女が己の意志で魔王の花嫁になるなんて、異例も異例。
人間の国の人たちが聞いたら卒倒しそうだ。
「エルドラ。私、もう一つ夢ができたわ」
「なんだ?」
「この子が立派な大人になるまで見届けたい。それで、貴方とこの子と孫に囲まれて看取られたい」
きっとエルドラと私に似た子が生まれる。竜の血が濃くなるのか、聖女の血のほうが強く出るのか、未知数。
魔王と聖女が結婚したなんて、わたし達が初めてだから。
エルドラは珍しく、困った顔になる。
「できれば死ぬときのことでなく、それまでのことを夢に見てくれ。時間はこれからたくさんあるのだから」
「そうね。なら、一緒に考えて。楽しいことたくさん」
私が笑うと、エルドラも微笑む。
とても優しい顔で。
End
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