16人が本棚に入れています
本棚に追加
声は、窓の外から聞こえた。
ここは崖っぷちの塔の最上階なのに。人の声なんてするはずが。
空に、漆黒の翼をもつ青年が現れた。
真黒な髪に反比例する真白の肌。真紅の瞳。こめかみから天に伸びる魔族特有の二本角が、彼が人間ではないことを物語る。
空を飛ぶ魔族にはどんな種族がいたかしら、なんて思考が飛んでいく。
魔族が私をたすけるなんて、現実感が薄くて、目の前の光景を信じるのに時間がいった。
「自由になりたいか?」
青年はもう一度聞いてくる。
反射的に答えていた。
「ええ。……私は、自由になりたい。ここから出して」
「ならば」
青年は外壁に手をあて、粉々に吹き飛ばした。
石造りのはずのそれが、積み木のようにガラガラと崩れ落ちていく。
もう、私を縛る檻はなくなった。
青年は私の前に降り立つと、手錠に触れる。
あんなに固くて冷たかった鎖は、砂になって風に飛ばされていった。
最初のコメントを投稿しよう!