冷遇された聖女は孤高な魔王の寵愛で甘く溶かされる

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 声は、窓の外から聞こえた。  ここは崖っぷちの塔の最上階なのに。人の声なんてするはずが。  空に、漆黒の翼をもつ青年が現れた。  真黒な髪に反比例する真白の肌。真紅の瞳。こめかみから天に伸びる魔族特有の二本角が、彼が人間ではないことを物語る。  空を飛ぶ魔族にはどんな種族がいたかしら、なんて思考が飛んでいく。  魔族が私をたすけるなんて、現実感が薄くて、目の前の光景を信じるのに時間がいった。 「自由になりたいか?」  青年はもう一度聞いてくる。  反射的に答えていた。 「ええ。……私は、自由になりたい。ここから出して」 「ならば」  青年は外壁に手をあて、粉々に吹き飛ばした。  石造りのはずのそれが、積み木のようにガラガラと崩れ落ちていく。  もう、私を縛る檻はなくなった。  青年は私の前に降り立つと、手錠に触れる。  あんなに固くて冷たかった鎖は、砂になって風に飛ばされていった。
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