冷遇された聖女は孤高な魔王の寵愛で甘く溶かされる

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 赤い瞳がまっすぐ私をとらえる。 「我はエルドラ。魔王と、呼ぶ者もいる。そなたに会いに来た」  聞いたことがある。  エルドラとは人間の敵、魔族の王の名前だ。  とてつもなく強い力を持ち、万の軍勢すら一人で落とせるほどの魔力を秘めたバケモノ。  噂に聞いていたけれど、本人に会うのは初めてだ。  うわさと違ってバケモノというような恐ろしさは感じない。 「……そう。あなたは魔王なのね。このあと私はどうなるの? 誘拐されて、魔族の皆さんのために治癒魔法を望まれるの?」  同族の人間ですら、私をこんなふうに扱うのだから……魔族はもっと酷い扱いをするのかしら。  誘拐されて魔法を使わされるだけの人生は十七年で終了、……もうそれでいいのかもしれない。  来世こそは、道具扱いされない生を送りたい。 「誘拐ではない。魔法を使えとも言わない」 「じゃあ何かしら。私を閉じ込めていた者たちのように、治癒魔法を使える子を産めと言うの?」  見返りを求めずに、ただ通りすがりでこんな辺鄙なところまで助けに来るなんて、普通はしない。 「我は、前世の其方と約束したのだ。何度この世界に生まれ来ても、必ず見つけて助けると」 「前世? 前の私が助けてと言ったの?」 「そう。二百年前も、そなたはこうして囚われていた」  エルドラの指が、そっと私の頬に触れた。指先が、いつの間にか流れていた涙をすくいとる。 「とっくに死んだ人との約束を果たすために、わざわざこんなところに?」  たとえ頼んだのが前世の私だったとしても、その私はもう死んでいる。  約束を果たそうが放棄しようが、わからないのに。  囚われている人間ひとり、助けたってエルドラになんの利益にならないのに。  こんな心根の人が、本当に人類の敵なの? 「其方が自由を求めたから、壁を壊した。これからどこに行くにも、其方の自由だ」 「私を、閉じ込めたりしないの? このまま逃げていいと言うの?」  自由にしろと言われたのに不安になってしまう。  触れただけで壁を粉々にできるような力があるのだから、脅して妻になれと言うことだってできる。  なのにそれをしない。  本当に、ただただ私を助けてくれただけ?  エルドラという男は表情に乏しいようで、口元や眉の動きから気持ちを読み取れない。  不思議と、エルドラに興味がわいてきた。   「自由に生きよというのなら、私、あなたとともに行ってみたいわ。連れていって、エルドラ」 「それがそなたの望みなら」  エルドラに抱えられ、空に舞い上がる。
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