冷遇された聖女は孤高な魔王の寵愛で甘く溶かされる

6/15
前へ
/15ページ
次へ
 こうして私は、エルドラに連れられて魔族の国に移住した。  自らの意思でどこかに行くのは初めてだ。  初めての選択は、私をどこへ導くだろう。  エルドラが魔王城の一室を与えてくれて、そこに住むようになった。  手錠はないし、自由に外に出られる。  しかも魔法を使えと言われない。  使用人のみんなも優しくて、高待遇すぎて気が引ける。  こんな、争いのない穏やかな時間をおくったのは、たぶん幼い頃以来。十数年ぶり。  お世話されるだけの日々は、私には合わないみたい。 「ねえ、私に何かできることはある? 手伝えることがあるなら言ってほしいわ」  朝、食事を運んできてくれたうさぎ獣人の侍女に聞いてみる。  侍女はふさふさの耳を揺らして答える。 「貴女の望むまま、お好きなように過ごしていただいて良いのですよ、サラヴィエ様」 「その、好きなことが何かわからないの。自由になれたのは初めてで」  人の傷を癒やし病を癒やす、それしか求められて来なかった。  私は自分に何ができるか知らない。  だから、学びたかった。  これまでの、しかたなくやらされてきたものでなく、自分の意志でやりたいと思えることを探したい。 「わたしでは決められないので、陛下に直接お伺いを立ててはいかがでしょう?」 「そうするわ。ありがとう」  確かに、侍女では勝手に仕事を割り振れない。提案されるまま、エルドラの部屋を訪ねた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加