冷遇された聖女は孤高な魔王の寵愛で甘く溶かされる

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 掃除すると決めたものの、生まれてこの方掃除なんてしたことがない。  物心ついた頃には囚われの生活だったから、親の顔もあまり覚えていない。  たぶん幼少の、治癒魔法の力が発覚する前は普通の庶民だったと思う。  メイドに掃除のなんたるかを聞いて実践する。 「いいですか、サラヴィエ様。窓を拭くときにはしっかりと布巾の水を切らねばなりません。水跡がついてしまいます」 「こ、こう?」 「こうです!」  雑巾の絞り方も下手くそ。  ちゃんと庶民の、人間らしい暮らしをしていたらこんなこと聞かなくてもわかるのに。  初歩の初歩から教えてくれるメイドが 優しすぎる。  優しいから、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。 「ホウキを勢いよく動かしてはなりません。ホコリが舞って空気が汚れます」 「こ、これくらいの強さなら? っ……ケホ、ケホ!! い、今、身を持って知ったわ。」 「サラヴィエ様、勢いが良すぎです。ていねいに」 「て、ていねいに……」   窓を開けて空気を入れかえ、調度品を濡れ布巾で拭いて、床のホコリが舞わないよう注意しながらホウキを動かす。  危なっかしい、ヒヤヒヤするとメイドたちに心配されながらも、日々少しずつ掃除の技術を磨く。 「どうかしら、エルドラ。部屋がきれいだと気持ちいいでしょう」 「そうだな」  椅子に腰掛けていたエルドラに手招きされる。そばにいくと尖った爪の手をそっと伸ばし、私の頭をなでる。  幼い子をあやすような、なれない手つきで。 「なに?」 「ああ、やはり其方なら壊れない」 「……そうね」  エルドラには、同族の魔族すら迂闊に近寄れないのだった。  私も人間の国では酷い扱いばかりされたいたから、ひと肌の温かさ、知らないわ。  エルドラの頬に触れてみる。  姿形は人に近いけれど、人のような熱はない。体温が低いものなのかしら。 「其方は温かいな」 「貴方の体温が低すぎるのよ」  エルドラの手が、私の手に重なる。冷たくてゴツゴツした手のひら。  両手で頬を包むようにして、額を合わせる。
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