意地っ張り魔法使い、X回目の人生でも臍を噛む

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 レオルゴールは目を開けた。  そこはレオルゴールに与えられた部屋だった。寝台の天蓋には精緻な刺繍が施され、初めて見た時は度肝を抜いたものであった。しかし、それももはや見慣れてしまった。彼はその刺繍を特に大きな感動もなく眺めた。  そうしていると、徐々に頭が覚醒し、自身に起こった凶事を思い出した。  レオルゴールが体に力を入れると、四肢から応答があった。五体満足であることに気が付いて、レオルゴールは小さく息を吐いた。 「……生きてる」  レオルゴールがつぶやくと、寝台の幕の向こうから人影が現れた。 「……おはよう」  顔を見せたのはケントガランであった。彼は切れ長の瞳をさらに細めて、痛々しいものを見るようにこちらを見下ろしている。 「……俺、どうなったんだ」  掠れる声で尋ねると、ケントガランが水を差し出しながら静かに答えた。 「魔法陣が暴発したようだ」  その言葉で、レオルゴールはあのけたたましい音を立てて襲い来る黒い炎を思い出した。 「死んだと思った」  レオルゴールは素直に言った。あれほど複雑に組んだ魔法陣が暴発して、無事で済むとは思えなかったのだ。
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