意地っ張り魔法使い、X回目の人生でも臍を噛む

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 彼は農夫の子として生まれ、豊かな南部の農村で純朴な人々に囲まれて育った。彼の父はたびたび「国民の誇り」について息子に語った。彼は父から爵位こそ貰わなかったが、愛国心を受け継いだのだ。  しかし、その爵位を持たぬばかりに、いまこうしてここに転がっている。レオルゴールが貴族の生まれであったのなら、彼は立身出世のために悪に手を染める必要などなく、また仮に悪事を働いたとしても貴族であるなら不問にされたはずであった。  彼は門閥主義を心底恨んだ。門閥主義こそがレオルゴールの真の敵であった。  この国の貴族は今から160年前に戦争で手柄を立てたことを理由にその地位にいる。顔も知らないであろう先祖の威光を振りかざす現代貴族は、歴史の法則通り、腐敗しきっていた。  この160年間、婚姻と子息の増加により、貴族と名乗る者は増え続けている。貴族とは愚かな生き物らしく、衣服に家、見栄と意地に金を掛けることばかり考え、自分たちの足元で苦しんでいる民のことなど眼中にないのである。    いま、この国は四方から血なまぐさい匂いが漂っていた。
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