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この時、レオルゴールは石像になった。これまでの人生、彼は魅了の魔法を多用していたため、素面の人間から愛を囁かれたことがなかったのだ。
ケントガランは「返事はまた今度でいい」と言い残して去っていった。レオルゴールは晴天の霹靂、しばし言葉もなく顎を外れんばかりに開けたまま、呆然とその背を見送った。
*****
それから数日、レオルゴールは困惑していた。これほどどうしたらいいのかわからないことはない。
好敵手と定めた相手に見染められたのだ。彼の困惑も尤ものことだ。
「どうしたら……」
彼は柄にもなく寝台に寝転んでひとりごちている。さながら乙女のような姿であった。
いま、彼の心は2つに分かれている。1つは国のためにケントガランを打ち破って王子の配偶者になれと叫び、もう1つはケントガランへの友愛に似た気持ちの置き場に悩んでいる。
レオルゴールは頭を抱えた。これまで、彼はただ貴族を恨み、己の力のみを信じて走ってきた。人生とは過酷な競争であり、他者とは騙し、奪い、操る対象であった。
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