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それが今世はどうだ。清潔なシーツの上で眠り、嘘偽りなく他者と会話し、ケントガランとアフタヌーンティーを楽しみ、芝居を見に行くこともある。
レオルゴールの研ぎ澄まされた刃が、ぬるま湯で溶かされてしまったのだ。
レオルゴールは寝台から飛び降りて机に向かった。
心がせわしないときは何か作業をするに限る。レオルゴールは書きかけであった魔法陣を引っ張り出して、頭からケントガランを追い払うべく作業をはじめた。
「くそっ……」
ペンは遅々として進まない。ケントガランの切れ長の瞳を脳内で何度も打ち払う。しかし、ものの数秒でまたその瞳に見つめられる。
それもそのはず、レオルゴールの今書いている魔法陣は、ケントガランに何度も助言をもらったものである。
レオルゴールは魔法陣を床に放り捨てて、今度は魔法の書物を手に取った。しかし、それもまたケントガランに勧められたものであり、これでは駄目だとまた床に投げ捨てた。
レオルゴールは次々と没頭できる何かを求めたが、そのどれにもケントガランの影があった。それほどに、ケントガランはレオルゴールの生活に深く入り込んでしまっていたのだ。
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