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「徹さん、何があったの?」
「うーん、俺の中の淳がいきなり暴走しだして、それにつられて美央まででてきちゃったんだよ。遥香も記憶がなかっただろう」
頭の中で『俺のせいにするなよ』という声が響く。
「それと、」言うべきか、言わぬべきか。『言えよ』といわれ、言うことにした。
「俺は、それがきっかけで淳と話ができるようになった」
遥香は驚き、自分も美央と話してみたいと言いだした。
『抱きしめてやれよ。心細い思いをしたんだから』
ああ、混乱する。言われなくても抱きしめるさ。
「遥香、今日は大変だったね。愛してるよ」
スルッと淳がでてきて『愛してるよ』と囁いた。はにかんだ遥香の唇を奪い、胸をなでさすりながら首筋へと吸うように肌を舐めていく。
もどかしいのか服の裾をボトムから抜き出し、直接素肌を愛撫していく。スカートの裾にも手を入れ、パンティに手が触れようとした時、
「いや、こんなところで、車の中では」遥香が身体をよじった。
「べつなところに行こうか。遥香ちゃんを抱きたくてたまらない。徹じゃ、慰めてやれないよ」
「淳さん?」
「淳、抱くのは家に帰ってからだ。少しは我慢しろ」
「徹さん?」
困惑した遥香のスカートから手を抜き、徹はシートベルトを締めた。
「淳は興奮してるんだ。俺が何をしてもはねつけてくれ。事故に遭って、遥香や美央に何かあったら大変だ。わかったな、淳」
最後は厳しい口調でいった。『わかったよ。その代わり夜は俺がでていくからな』ふてくされたような声が返ってきた。
途中で買った総菜を前にソファに落ち着くと、二人でハアとため息をついた。1日が長かったが、これから長い夜が待っている。
必要なことは最低限話した。あとは遥香の質問に答えればいい。肝心なことを伏せてあるせいか、遥香はいまひとつ納得していない顔をしていた。いずれ話す時がくるだろう。その時、どう言えばいいのだろう。遥香を傷つけたくない。でも彼女が知りたくなったのなら、伝えるべきだろう。矛盾する案件に徹は頭を抱えた。
今夜は淳に遥香を奪われるのか。
『徹も抱きたいのか。3人で交互にってのはどう?俺は徹を眠らせるコツを知ってるんだぜ。その気になればいつでもできる。やらないだけ紳士だろう』
『バカな。何をいってるんだ。遥香を混乱させるな』
「徹さん、どうしたの?」
箸をとめた徹をいぶかしげに見ている。
「ああ、淳がでたいっていってるんだ」
「淳さんは大丈夫?なんで暴走しちゃったんだろう」
考え込む遥香に何と言葉をかけていいかわからなかった。美央も淳も遥香を守っている。ぬるま湯と言われようが、守りたいものは守る。徹だって最近自然に笑うようになった遥香を守りたい。こんなクソみたいな経験はない方がいいにちがいないのだから。
『徹さあ、俺がなんで現れるようになったか、何がきっかけだったか、知りたい?』
『どうだろう。知らない方が良かったりするのかな』
『遥香ちゃんよりはましなんじゃね。あの男は殺してやりたいくらいだ』
『物騒なことはいうな。理由を知ったら、俺はどうなる?』
『それはわからない。俺は精神科の先生じゃないから。聞いてみたら』
徹は考え込む。知ることで何が変わるのだろう。変わらないかもしれない。いや、淳を生み出すほどの衝撃だ。思い出そうとすれば、今でも頭痛に襲われる。もしその時の感情を再体験したら、恐怖と絶望の痛みに耐えられるだろうか。切り離してあるから今は普通に生きていられるのだ。
その記憶を持ったまま淳は生きている。
淳は強いな。
徹はしみじみと思った。
「徹さん」
「ああ、ごめん、ごめん。淳が遥香に会いたがってさっきからうるさいんだ」
遥香が嬉しそうな顔をした。苦いものを口にした時のように、顔がゆがむのを隠せなかった。
「遥香は淳が好きなんだね。その俺よりも」
瞳を見開いた遥香が、頭を振った。「ちがうわ。二人とも大好きよ。比べられない」
嘘だ。
遥香は淳を選んでいる。本能的に言葉の嘘を見破った。責めるわけにはいかない。自分だって美央の方を愛しているのだから。
『おまえは美央より遥香の方が好きなのか』
『‥‥』
淳は何もいわない。それが返事だと思った。なんてこった。いったい自分たちはどこまでぐるぐる絡み合うのだ。
遥香と淳がセックスしている最中であれば、こちらも集中していろいろ考えられる。
『今夜は淳に任せることにしたよ』
『恩にきるぜ』
「そのうち淳がでてくる。とりあえず風呂入ったり、明日の準備をしてからかな。遥香もいろいろ終わらせといた方がいいと思う」
「うん、そうする」
艶めいた声に、徹はふと大事なことを忘れていたことに気がついた。自分が嫌になる。遥香と淳に気を取られて、美央を置き去りにしていた。
「その前に、」
『美央と会う。少し時間をくれ』
『そうだな。その方がいい』
「遥香、美央とちょっと変われるか?」
遥香もあっと気づいたように口を開けた。
「美央、ちょっと話があるから出てきてくれないか」
いつも勝手にでてきていたから、いざ呼び出すにはどうしたらいいのだろう。
「どうすれば美央がでてきてくれるかな」
遥香も腕組みをしながら考えている。「わたしが声をかけてみる。美央はこちらのことわかっているのよね」
『ああ、寝てなければな』淳が会話に割り込んできた。
『寝てたら、どうやって起こすんだ』
『そうだな。遥香を抱きながら、美央って呼んでみろよ。愛する男の声がすれば、すぐ起きてくるさ』
遥香は美央に話しかけているが、いっこうに現れる気配がなかった。
「遥香、淳が試しにやってみろって言ってたんだけど、俺が今から美央だと思って呼びかけようと思う。リラックスして俺に身を任せてくれないか」
遥香が目を閉じた。頭を抱き、美央と呼んでみた。返事はなかった。遥香の唇を吸いながら、美央の悦ぶ場所をめがけて指をはわせていった。下着に手を入れ、クリトリスをそっとなでる。秘芯にあふれた蜜を感じながら、指を差しいれた。ピクンと遥香の身体がしなった。
「美央。でてきてくれ。会いたいよ。会いたくてたまらない」
遥香から力が抜けた。ぐったりした身体を抱きながら、美央、美央と呼びかける。
「ああん、徹、会いたかった」
しがみついてきたのは、美央だった。涙があふれ、泣き笑いの顔だった。
「美央、心細かっただろう。大丈夫か。遥香は大丈夫だ。淳も問題ない」
えっえっと嗚咽をもらし、胸に顔をうずめ泣きじゃくっている。髪をなでながら、落ち着くのを待っていた。
「は、遥香はあいつにいい思い出しかないから、あ、会うって決めた時、複雑だったけど、我慢しようと思ったんだ。で、でも実際に会ったらさ、」
徹は美央を力いっぱい抱きしめた。どんなに心細かっただろう。側にいながらすぐ寄り添えない。4つの人格は時にもどかしい。
「と、徹、一人にしないで。怖い、怖いよぉ。あいつが憎かった。殺してやりたいくらい憎かった。そう思ったら遥香を押しのけていたの。でも、後で怖くなった。怖い。とおる、徹ぅ。嫌いにならないで。わたしを見捨てないで。お願い」
顎に手をやり、そっと唇に触れた。「大丈夫。俺がずっとついているから、愛しているよ。ずっとそばにいるから」
「ホントに?絶対だよ。徹と遥香でどっかに行っちゃわないでよ」
「どこにも行かない。みんな一緒だ」
「わたしのこと消さない?邪魔にならない?」
「邪魔になんかするもんか。美央がいない生活なんて考えられないよ。どうすれば安心する?美央の望むことならなんでもしてあげるよ」
「抱いて、思いきり激しく抱いて」
涙で濡れた顔で美央がせがんできた。性器に手をあてるともう挿入できそうなくらい濡れていた。
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