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少年――白の国の魔法使い、アルバ。
彼は王国の遺跡から、封じられた古文書を見つけ出す。
太古の賢者が残したというその書には、この世界の真実が記されていた。
大昔、神は大陸に二つの種族を作った。光ある所に影ができ、影ある所に光がある。白と黒の二つが彩る美しい世界を、神は望んでいた。
しかし人々は互いを羨み、憎み、どちらか一方に染めようとする。人々の欲深さに失望した神は呪いを掛けた。
白と黒が互いを許し、愛し合うことでしか、解けない呪いを。
白は黒を、黒は白を見つめなければ、世界が色を失う呪いを。
アルバは白の女王に書の内容を訴えた。しかし女王の耳は、憎しみに閉ざされていた。
古文書の賢者も、誰にも聞き入れられなかったに違いない。だから未来に託したのだ。
先の戦で多くの仲間を失ったアルバは、三年後に迫りくる戦争を何としても止めたかった。そこで彼は賭けに出た。身をもってその書の内容を証明し、黒の王と白の女王を説得しようと、黒の国に単身で飛び込んできたのだ。
しかし道中で矢を射られ、長旅で魔力を消耗していた彼は瀕死に陥る。その時ノクシアに出会った、という訳だ。
「……信じられないな」
力ないノクシアの声。アルバと意識を共有することで、彼の見てきたものを追体験した彼女は、虚言だと一蹴する事が出来ない。
「僕も最初はそうだった。でも君と居て、分かったんだ」
アルバはノクシアの拘束を解き、彼女の手を取る。ノクシアは振り払おうとするが、非力な少年のその手から逃れることは出来なかった。
「拒まないで。ちょっとでいいから、僕を受け入れてみて」
「何を……」
ノクシアを見つめる、二つの瞳。そのあどけない白は、彼女の大切な友人そのものだった。ノクシアの頭の中に、森での穏やかな日々が蘇る。それが全て嘘だったとはどうしても思いたくない。
その時、視界の曇りが晴れた気がした。不思議と世界がいつもより鮮明に見える。ハッとして腕を見ると、呪いの刻印が薄くなっていた。
「これで、分かって貰えたよね。僕達が互いを……その、手を取り合うのが呪いを解く方法だって」
「手を取り合う……」
ノクシアの心に温もりが広がる。――同時に、冷えた。自らの剣にこびり付いた色を思い出し、堪らず身を引く。
彼女の拒絶に刻印は戻り、アルバは「あ、」と悲し気に目を伏せた。
「お前、この事をどうやって陛下に伝える気だったんだ」
「えっ? いや、今君にしたみたいに……無理かな?」
「無理に決まっているだろう。白の民の言葉など、誰も聞きやしない」
「うーん。じゃあどうしよう」
「私が話してみよう」
力強いノクシアの言葉に、アルバが目を丸くする。
「協力してくれるの?」
「呪いを解く方法なんて、これまで手掛かりさえなかったんだ。試してみる価値はある」
「ありがとう!」
「お前の為じゃない、国の為だ。とりあえずお前はここに隠れていろ。私は陛下に謁見の――」
ガサリと草の揺れる音。二人はいつの間にか、黒の騎士達に囲まれていた。先頭に居る人物は、第一騎士団長クロウ。ノクシアに見合いを断られ、執念を燃やす男である。
「まさか気高き黒豹サマが、白の民と密通しているとはな」
嫌味な笑い。ノクシアは騎士の数を数え、瞬時に戦力を概算する。
「……逃げろ!」
アルバを後ろに押し退け、騎士達に剣の峰で立ち向かうノクシア。アルバは躊躇いを見せるも、彼女と騎士達の気迫に負け、鳥に姿を変え空に飛び立った。
それを見届けてから、ノクシアは大人しく捕らえられる。クロウを含めたこの人数には敵わない。それに、彼女の剣は王国民を守る為にあるのだ。
「おい、俺の女になるなら助けてやってもいいぞ」
「結構だ」
間髪入れないノクシアの返答に、クロウは舌打ちした。
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