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まだ朝靄の残る薄暗い森の中。漆黒の木々の間から差し込む白い光が、騎士達の黒い鎧を照らす。騎士達が剣を構える先には、彼らより一回り小さい鎧姿。しかし圧倒的な存在感を放つ、女騎士ノクシアが立っていた。
パタッと露が葉を打つ音を合図に、騎士達は一斉に彼女に向かって駆け出す。
「甘い!」
ノクシアは四方からの攻撃を難なく躱した。彼女の放つ鋭い一閃に、騎士が剣を取り落す。目にも止まらぬ速さで相手を狩るその姿から、彼女は“黒豹”の異名を誇っていた。
「剣を振るう時は全力を尽くせ! 半端な力では敵を倒せないぞ! 戦場では黒と白、どちらかのみが生き残る。その覚悟を持て!」
ノクシアの怒号が響き渡る。
――黒と白の両国は、長年の戦による国力の低下から、五年の休戦期間を設けた。三年後には準備を整えた両国による、これまでにない激しい戦いが始まる。
王国第三騎士団、団長ノクシア。彼女は次の戦でも活躍を期待されていた。
野外訓練を終え城に戻る道中、ノクシアは茂みの中に何かを見つけ足を止める。
「団長、どうかなさいましたか?」
「いや、何でもない。先に行っていろ」
彼女の返答に部下は納得のいかない顔をしていたが、その鋭い眼光で睨まれるとそそくさ立ち去った。
ノクシアは誰も居ない事を確認してから、茂みを掻き分ける。そこには羽に矢の刺さった、一羽の白い鳥。足元の黒い草にはミルク色の血液が滴っていた。
黒の国では忌避される、白い動物。その矢も誰かが悪意を持って放ったのだろう。白を嫌悪する気持ちはノクシアも同じだが、罪無き獣を傷付ける事には共感できない。
すっかり弱り切った小さな生き物の、憐れを誘うその姿に、ノクシアはそっと手を伸ばした。
真珠の瞳は怯え、警戒するように見開かれ「カア」と鳴く。
それが、一人と一羽の出会いだった。
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