【GRAY】-黒き女騎士と白の希望-

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 一人と一羽の関係が始まり、早三月(はやみつき)。  怪我がすっかり良くなった鴉は、まだ飛び去っていなかった。ノクシアもそれをどこか嬉しく思っている。彼女は鴉に不思議な友情を抱き、そして自身の変化を感じていた。  生真面目な彼女はお気楽な鳥の影響で、少しだけ肩の力を抜くことを覚えたのだ。以前より明るく穏やかになり、部下達との関係も良好になった。  だから、そんな風に活き活きとしていた彼女がその日、暗い顔で膝を抱えていたことに鴉は驚いた。 「鳥、なんて顔をしている」 「いや、それこっちの台詞だから。何かあったの?」  脇腹をツンツン(くすぐ)る鴉に、ノクシアは僅かに表情を緩める。そしてポツリポツリと話し始めた。  彼女を悩ませているのは、見合い話だ。ノクシアは男爵家に生まれた三女。適齢期にはそのような話もあったが、彼女は剣の道を選んだ。戦果を上げ力付くで周囲を黙らせてきたのだ。  しかし二十七になった今、再び見合い話がやってきた。相手は妻を亡くした第一騎士団長。少し前からノクシアに度々言い寄っていた男だった。性格はさておき家柄も実力も申し分ない相手である。  周囲も優秀な血を掛け合わせることに賛成のようだった。 「私は騎士だ。戦場で戦い王国を守るのが私の役目。結婚など考えたことも無い」 「う、うんうん」 「しかし、もしこの結婚が王国の為になるなら。それが女としての義務だというなら。……ああ、悩むなんて私らしくないな」  ノクシアはくしゃりと顔を歪める。 「……カァー! 本当に君は、真面目だねえ!」  鴉がバサバサとノクシアの顔に飛びつき、その頬を軽く(ついば)んだ。「こら、何をする」彼女達はじゃれ合い、緩やかに地面に倒れる。 「騎士とか女とかさ、そうじゃないでしょ。君は、たった一人のノクシアなんだから。大切な自分の為に悩むのは、悪い事じゃないよ」  耳元で(さえず)る優しい声。    ――ノクシアには、目の前に広がる昼間の白い空が、いつもより多彩に見えた。白も黒も決して一色ではない。そこには濃淡があり、いくつもの色が存在している。今は二通りしか見えない道だが、他の道もあるのかもしれない。 「そうだな。やっぱり断ろう」 「え? 今の流れでそうなる?」 「私は何でもハッキリさせておきたいんだ」 「ああ、そうですか」  鳥は呆れたような、どこか嬉しそうな溜息を吐いた。 「なあ、鳥……いつか私達は、こんな美しい空を見られなくなるのだろうか」  彼女の腕から首にまで広がる、白い刻印。それは命を(むしば)み視力を奪う、神の呪い。  小さな丸い瞳が悲し気にそれを見つめた。
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