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見合い話を断り、一層騎士として磨きをかけるノクシア。彼女はまた一皮むけたようだった。
「だからって脱がなくていいんだよ! 恥じらいを持って!」
訓練の後だからと着替え始めるノクシアを、鴉が慌てて止める。
「“だから”って何だ? 人目もないのに何が問題なんだ?」
「あのね、僕、オスなんだよ!?」
「知っている。で、だから何だと?」
「カー!」ともどかしそうに頭を振る鴉。「もう今しかない。これを逃したら僕の沽券に関わる」とブツブツ呟く。
大丈夫かと声を掛けようとしたノクシアは……目を疑った。
白い羽が数回羽ばたくと、その姿はみるみる大きくなっていく。いつの間にかそこには一人の少年が立っていた。
ノクシアより目線の低い、少年と青年の境の華奢な体。髪も肌も瞳も白一色で、顔の半分には、黒い呪いの印が刻まれていた。
憎き白の民の姿に、ノクシアは反射的に飛び退き剣を取る。消えた鳥と現れた少年が、彼女に残酷な事実を突き付けていた。
一部の白の民が、魔法で動物に姿を変えられる事を、彼女は知らなかった。
「お前、やはりスパイだったのか!」
「違う違う、とにかく話を、」
ノクシアは少年の言葉を待たず切り込む。排除すべき敵の存在は、黒の民の遺伝子に刻まれているのだ。しかしその刃は少年に届かない。ノクシアは地面から伸びる蔓に手足を拘束され、倒れ伏した。
「……今まで弱いフリをしていたのか、卑怯者!」
「脳ある鷹は爪を隠すって奴だよ。あ。鴉だったね」
その軽口はよく聞き慣れたもので、ノクシアは唇を噛む。
「殺すなら殺せ。最後の力で喉元噛み切ってやる」
「いやいや、話を聞いてってば」
「白の民の戯言を聞く耳などない」
「あるよ、ここに」
少年の冷たい手がノクシアの耳に触れる。ノクシアはその透き通る瞳に吸い込まれた。
「落ち着いて。僕はスパイでも暗殺者でもない。黒の王様に、真実を伝えに来たんだ」
少年の額が、ノクシアの額に重なる。するとノクシアの中に、少年の意識が流れ込んできた。
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