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――その時、世界が表情を変える。
人々は見たことも無い光景に息を呑んだ。
ノクシアとアルバの体から放たれる、力強い闇と清らかな光。
黒と白は混ざり合い、周囲に柔らかな灰色の輝きを放つ。
「何だ、これは……」
「僕達、どうなって……」
ノクシアとアルバは目を見開き、互いを見つめる。体の傷はすっかり癒えていた。そればかりか、その体からは忌まわしき刻印が完全に消えている。鮮やかに晴れ、澄み渡る視界。ノクシアの体には力が漲り、アルバの体には魔力が無尽蔵に湧いた。
「珍妙な術に惑わされるな! 捕らえろ!」
クロウが剣を抜き、二人に襲い掛かる。
ノクシアの反応は、早かった。「ふん!」と力任せに鎖を引きちぎり、地面に落ちていた斧を素早く拾い上げ、クロウの剣を真っ二つにする。
息も付かせぬその神速は、まさに戦場の黒豹――いや、黒い稲妻だ。
クロウ率いる第一騎士団が二人を取り囲もうとするが、堪らず出てきたノクシアの部下達が、それを止める。
人々の目から呪いが溶け出し、頬を伝った。
「これは奇跡だ」と誰かが言う。誰もが言う。
手を取り合う黒と白の姿に、人々は希望を見たのだ。
天幕の奥、黒の王の厳しい表情も和らいでいく。灰色の光が彼の心を溶かした。
「こんな事があるのか」
王の呟きに呼ばれたように、玉座の裏から巨大な白蛇が現れ、王も衛兵も腰を抜かす。蛇は見る間に美しい女の姿に変わり、固い絆で結ばれた少年と女を見て目を細めた。
「我が息子ながら見事だ。本当に呪いを解いてしまうとはな」
白の王国の女王、アルバの母。彼女は息子の危機を察し駆け付け、この奇跡を目の当たりにした。
「黒の王よ。我らは互いの血に染まり過ぎた。積もり積もった憎しみは、すぐには消えない。しかし我々の子、孫、その先の世界の為に。この手を取り合うべきなのかもしれないな」
白い手が差し出される。細く白い女の手を、無骨な黒い男の手を、二人は恐々と取った。
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