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目覚め
目が覚めると知らないベッドの上にいた。
「んー……、どこだ、ここ」
いつも泊まるような宿屋の部屋じゃない。広くて綺麗で、たぶん結構大きな建物。
「めちゃくちゃ頭痛え……」
最悪の目覚め……なのだけど、ふかふかな枕と、まるでお城の中の部屋ように豪華な絨毯や窓がある部屋にいることに気づいて首をひねる。
「あれ……ほんとにここどこだ?おーい、ロンネル!」
ベッドの上に起き上がると頭が余計に痛い。ついでに身体もばっきばき。てか腹減ったし喉渇いたし。
部屋の外からドタバタ足音が聞こえたかと思うと、勢いよくドアが開けられた。
「お目覚めになられたのですね。誰か、ニナを呼んできてくれ」
「ロンネ……いや、だれ?」
顎びけのある渋めなおっさんが従者に指示を出しつつ駆け寄ってきた。これからパーティでも行くみたいな派手な服装。でもくるんと巻いた変な髪型とよく合ってる。
「私はウィリアム・フォトナーと申します」
名前を聞いてもピンとこなくて、僕は首を傾げた。男がくすりと軽く笑う。
「この辺の土地、フォート領を治めている領主です。砦の兵士たちのトップ、と言えばわかりますでしょうか。貴方はべロック砦からお連れいたしました。兵士たちの話では、我が兵士たちを治癒魔法で助けてくださったと聞いております」
べロック砦……?
ぼんやりと思い出す。そうだ、僕はロンネルと一緒に森を歩いていて、森を抜けたら砦があったんだった。それで、えーと、そこで成り行き上、魔獣に襲われた砦で傷ついた兵士を治癒魔法で癒しまくって、腹は減るしロンネルはいつまでたっても戻ってこないし、疲れてふて寝したんだった。ということは、そのふて寝している間にここに連れてこられたってことか。
「じゃあ、つまりここはあの砦から近い街で、領主ってことは、ここお城の中ってこと?」
「ええ、そうです」男が頷く。
西に向かって旅をしていたから、見当違いな方角に運ばれてないことにまずは安心した。あとは旅の仲間だけど、あいつどこいったのかな。
「あのさ、僕をここに連れて来る時、他に誰かいなかった?でっかくて、ガサツで、見るからに凶暴で歴戦の戦士みたいな……」
そう説明しかけたその時。
「失礼いたします、領主様」
穏やかな声と共に女の人が部屋に入ってきた。栗色の長い髪に、翡翠色の大きな瞳。女神様のように柔やらかな眼差しと目があった瞬間。
「あら、お目覚めになられたのですね」
女神様がにこりと笑う。
心臓の鼓動が止まった気がした。
この人こそ、僕が探していた人だ。
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