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 先輩が晴れの日に何をしているのかは、比較的すぐにわかった。 「これが500万円だ」 「えーー?」  雨の日に僕の部屋で渡されたのは、僕が返さなくても良いと言った500万円だった。 「これ、どうやって......」 「晴れた日は工事現場で肉体労働をしていたんだ。ホストの金を建て替えてくれて助かった。これで貸し借りはなし、この恋人契約は今日で仕舞いにしよう」  清水 莉雨は、真面目な女だった。  それなのにどうしてもホストに狂ってしまう。  僕は止められないのだろうか?  外は、いつの間にか晴れていた。  いつものように畳んだ傘を持って外に出て行く先輩を僕は追いかけることができなかった。 * (近付いたような気がしていたのに)  僕の部屋の中には、先輩がオススメしてくれたDVDや先輩がくれた少女漫画の類いが置いてある。  少しだけ、僕にも情緒とやらがわかってきた。手を繋いだり、抱きしめ合ったり、僕は一生分の恋人仕草を堪能しただろう。きっともう、僕が美人局だのキャバクラだので破滅することはない。 (あぁ、駄目だ)  それなのに、僕はまだ、先輩とその先を試してみたいという願望に気がついてしまった。 「雨が永遠に上がらなければ良かったのに」  けれど、恋人契約最後の日の雨は、もう降りそうにない。
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