XI

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XI

 数時間のグダグダを経て、水溜まりの多い歩道を、僕は当てどころもなく歩いて行く。晴れは、こんなに鬱陶しいものだっただろうか。  また、口論する男女を見かけた。今度はーー3人だ。 「おい、莉! どういうことだよ!」 「お姉ちゃん! 今回も払ってよ!」 「良い加減にしろ。この四年は間違いだった。もう私はお金を出さない」 (えーー?)  先輩と、先輩によく似た顔の女性がホストと口論をしている。 「お姉ちゃんはズルい! 一流企業に勤められないバカな私を見下してるの! お詫びに私の遊び代位払って!」 「私はーーもう不出来な妹のホスト代を支払うことはしない。知ってるか? 家でお酒を飲むと1000円で9本酎ハイが買えるんだ。もっと飲みたいならカクテルで自作が良い」 「な、何言って......」 「節約の大切さ、がわかってな」  先輩はーーホスト狂いではなかった。それに。 (僕に影響されてる)  恋人とは、共に価値観をわかりあうものだと先輩は言っていた。僕と先輩は確かに恋人だったのだ。 「ごちゃごちゃ言ってねぇで金払えよ!」  ホストが先輩に向かって拳を向ける。  僕はーー咄嗟に先輩を庇って殴られた。殴り慣れているらしく、凄まじい痛みだ。口の中に血の味がした。 「なんだテメェ!!」 「僕の恋人に何するんですか」  すかさず僕は殴られた後の僕の顔の写真、及び相手の写真を撮影した。 「アァ?」 「僕は当たり屋の知人が居るんです。相手からの慰謝料で小金を稼ぐ方法はよく教えてもらいました。知り合いの弁護士のところに一緒に行きましょう」 「な、なんだお前! き、き気持ち悪ぃな!」 「あぁ、そう。そこのお嬢さん? 僕、お金を稼ぐ方法ってよく知ってるんです。駄目ですよ。自分で稼がないと。大丈夫、ソフトな所からって伝えておきますから」 「ヒッ!?」  何故か僕の親切な案内は受け取られなかったようだ。 「こ、コイツ前現金500万円持ち歩いてたヤベー奴じゃん」 「なんか発言怖! アッチの人!? え、ねぇ、逃げよ!」  2人は駆け出して行く。僕は先輩と2人、取り残された。 「ビラ配り、そんなに嫌ですかね」  僕なりの親切だったのに。 「雨は上がったのに、なんで......」  これは重大な契約違反だ。  僕は一緒に見た映画のワンシーンを思い出した。先輩の顔に手を添えて、溢れた涙を拭う。 「ここに雨が降っていたので」
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