Epilogue

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Epilogue

「宮木! また企画書が出ていないぞ」 「10時までには出します」  とある雨の日のオフィスに、いつものギスギスとした空気が漂う。僕達の関係は、雨の日の契約をする前と同じものに戻っていた。  主任は誰のモノにもならず、孤高であるからこそ美しいのだと誰かが噂していた。僕はまた、お金を貯めることになるだろう。珈琲をインスタントからドリップに変えたので、少しだけスローステップになるかもしれないが。 「宮木くん、あの。今度納会があるんだけど、自費だから参加はしなーー」 「あ、参加で」 「えぇ!?」  一歩だけ、社会常識とやらに歩み寄っても良いかもしれない。もし、僕が少しだけ真人間に近付けたならば、先輩への距離はアリの一歩分ぐらい近づけるかもしれない。 (何年先になるかわからないけれど)  ブルル、とスマホが揺れる。  先輩、だった。 『今夜、晴の部屋で』 (!?)  この雨は昼には絶対に上がってしまう。  いや、そもそももう契約はないはずなのに。  メッセージはもう一通くる。 『新しい契約をしよう』  僕はこの雨上がりの退勤時を心待ちにすることにした。 【おわり】
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