IV

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IV

(さて、新品の金庫に給料を移す日が来たな)  口座に貯めていた給料をリスクヘッジのために部分的に金庫に移すことにした。今日は雨。銀行に向かう道すがら、僕は口論する男女を見かけた。  女の顔はわからないが、男の方は金髪で髪を立てている。所謂、ホストという人種だろうか。 「今すぐ耳揃えて払えって言ってんだろ!!」 「無理だ......」 (これが色恋で揉めるという奴か)  どうやら男だけでなく女もまた色恋で狂わされることがあるらしい。 「500万円。どう弁償してくれるんだ!」  一方的に女を恫喝するホストの声を聞きながらーー僕はその場を通り過ぎた。 * (これが500万円!)  渋沢栄一と福沢諭吉の混ざった紙束を鞄に入れ、僕は帰路を目指す。  引き出し後の銀行からの帰り道は少しだけ緊張する。誰が僕のバッグの中身を知っているかわからないからだ。 (まだやっているのか......)  視界に入ったのは先程の男女だ。 (どんな愚かな女なのだろうか)  僕は興味本位で言い争う女の顔を見てしまった。後悔した。見なければよかった。 (先輩だ)  僕が唯一尊敬する身近な女性が、あろうことかホストで失敗しているのだ。僕はーー思わずこう言ってしまっていた。 「そのお金、僕が立て替えます」
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