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夏(葵編)
円歌と話していて昔一緒に行ったグランピングが良かったことを思い出して、寧音と晴琉を連れて四人で訪れた。
「円歌って晴琉ちゃんといると幼くなるよね」
「うん、かわいいでしょ」
「すぐ惚気る」
グランピング施設の傍に川があって、晴琉が円歌に釣りを教えているところだった。たぶん騒いでいるのは円歌がエサである虫が苦手だからだろう。寧音は離れた日陰で涼んでいた。そして私も隣に座って話をしていたのだった。
「せっかく来たんだから川入る?」
「んーじゃあ葵ちゃんには何をしてもらおうかな?」
「いちいち条件なんて出さないの。ほら行くよ」
浅瀬を歩いていただけだけれど、まだ残暑の厳しい季節だから川の冷たさは気持ち良かった。それにしても可愛らしいワンピース姿で川を歩く寧音は優雅でアウトドアが似合わない。
「何を笑っているの?」
「なんでもない。楽しい?」
「気持ちは良いかもね」
「それは良かった……あ!」
寧音が足を滑らせて倒れそうになったから、咄嗟に腕を掴んだら私もバランスを崩して一緒に川へとダイブした。
「いったぁ……寧音?大丈夫?」
「……大丈夫だけれど……葵ちゃん、大胆だね」
「え?」
下半身が川に浸かってしまいびしょびしょの寧音。言っている意味が分からず冷静に状況を整理しようとして、気付いた。倒れた時に思いっきり寧音の胸を掴んでいた。
「あ!ご、ごめん!!」
「大丈夫、気にしないで……あっ……」
すぐに手を離したけれど寧音が何かに気付いて視線を上げたから、私もつられて振り返ったらそこにはとんでもなく恐い顔をした晴琉がいて、私も同じく「あっ」と声を上げたのだった。
四人で泊まる予定のコテージに戻って、びしょびしょになった寧音は着替えに部屋に行った。私は川で倒れた時に膝をすりむいてしまっていた。リビングの椅子に座って円歌に手当てをしてもらう。隣の椅子には不貞腐れた晴琉がいた。
「晴琉ごめんて。ちゃんと寧音が怪我しないように庇ったんだからさぁ、許してよ」
「……うん」
「晴琉、代わりに葵のこと叱っておくから寧音のところ行っておいで」
「わかった」
円歌の言葉で晴琉は椅子から腰を上げて寧音のいる部屋へ向かって行った。円歌は私が寧音の胸を触った現場を直接見ていなかったけど、晴琉が騒いだから事情は分かっていた。話を聞いても晴琉と違って平気な様子でいたから、内心どう思っているのか私には掴めていなかった。
「あれ?円歌、怒らないの?」
「んー?うん。晴琉の機嫌戻すのは寧音に任せたほうが早いでしょ?」
「あぁ、そうだね」
代わりに叱っておく、と言ったのに円歌は変わらず私の膝の手当てをしてくれていた。晴琉を寧音の元へ行かせる為だけに言っただけなら、それはそれで助かったけど、円歌の反応に違和感を感じる。私の想定では寧音の胸を掴んだことを少なからず怒るだろうと思っていたから意外だった。
「……もしかして、円歌も触ったことあるの?」
私の膝を手当てしていた円歌の手が止まって目が泳いだ。どうやら図星らしい。
「こら円歌、説明しなさい」
「えー?だってさぁ!あんなにスタイル良かったら触りたくなるじゃん!」
開き直る円歌。普段から寧音に対してはやたらスキンシップをしているのを知っていたからもしかしてと思ったけど、まさか本当だったとは。
「ほら、手当て終わったよ!ありがとうは⁉」
「話逸らさないの」
立ち上がって私から逃げようとする円歌の手を掴んで膝の上に乗せた。横から抱き抱える体勢になる。脇から手を差し込んで胸を掴んだら顔を真っ赤にする円歌。
「ちょっと葵⁉何してんの⁉」
「寧音にもこうやってさぁ、触らせたわけ?」
「ち、違うよ!私から、ちょっと、触らせてもらっただけで……」
「……寧音でも触るの禁止ね」
「わかったから、ねぇ、晴琉たちもう戻ってくるから……」
「円歌の体、私のモノだからね?」
「わかったってば……」
涙目の円歌のシャツをはだけさせて胸元に吸い付く。キスマークをつけてから解放してあげた。
「――円歌?どうしたの?」
「……なんでもない」
その後円歌は椅子の上で小さくなっていて、機嫌が戻った晴琉に心配されていた。
――おまけ
「晴琉の機嫌どうやって直したの?」
「内緒……」
葵から問われた寧音は服の上から胸元を抑えていた。服で隠れたそこには葵が円歌にしたよりずっと、独占欲の痕がたくさん刻まれていた。
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