秋(葵編)

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秋(葵編)

 円歌と一緒に住むようになって半年ほど経って、慣れてきたからだろうか。私から円歌を求める日々が続いていた。正直がっつき過ぎている自覚はある。一緒に住んでいるから円歌が誰かと出掛けたりSNSで誰かと連絡を取っていたりする時間をより把握できるようになったせいもある。独占できる時間があるならば、円歌を求めていたいと体は勝手に動いてしまうのだった。   「葵。今日は疲れてるからやめてね」 「ん、わかった」  付き合いが長いから、こういう時にちゃんと断ってくれることは助かる。代わりにキスをたくさんして、とおねだりしてくれるのも嬉しかった。良い雰囲気なのに途中で我慢しなくてはいけない点だけが大変だったけど。こうして円歌が断らない限りは私が円歌を求める生活が続いて、私には不満が溜っていったのである。円歌から誘って欲しいという不満が。 「――あおぃ……」  とある夏の深夜。円歌といつも通り一緒のベッドで寝ていた時のこと。名前を呼ばれた気がしてうっすらと目が覚めた。回らない頭でも右手が円歌に掴まれていることに気付いて、そして中指が何かに包まれていることに気付いた。何か、久しぶりな感覚……無意識に指を動かすと聞こえたのは聞き慣れた嬌声だった。 「あっ……」 「……は?」  思わず声を出して、状況を確認したくて起き上がってベッドサイドにあるランプを点けた。そしてようやく全てを理解した。円歌が私の隣で、私の手を使って、一人で――。 「はぁ……ごめん……葵……」  隣にいた円歌は泣いていた。少し息が上がっていて、頬も紅潮していて、解放された私の右手は濡れていて……状況に頭が追い付かない。 「ま、円歌?な、何して……」 「だって……葵……全然、触れてくれないから……」  最近は円歌から誘って欲しくて自分から円歌に触れるのは我慢していたのだった。もうすぐ1カ月だったはずだ。明らかに今までの私とは違うのに、何も言ってこないし、誘ってもくれない円歌に少し落ち込み始めていたところだった。欲しがっているのは私だけなんじゃないかって。 「もう私に飽きちゃったの?」 「そんなわけない」 「じゃあ、なんで……」 「最近私からばっかりだったから、円歌から誘って欲しくて……」 「それならそう言ってよ……急にしなくなったら、不安になるでしょ」 「ごめん……でも、なんで一人で……」 「全然してくれないのに誘って断られたら、本当にもう嫌だってことかと思って……怖くて……一人でなら、バレないかなって……」  何度拭っても円歌の涙は止まらない。ちょっとした出来心で傷つけてしまって反省はしている。でも後悔はしてるかと言われると、さっき見た、円歌の乱れた姿が目に焼き付いてしまって……。 「ごめん円歌。本当にごめんって思ってる。反省してるけど……正直言って今、めちゃくちゃ興奮してる」 「……変態」 「それは円歌も一緒でしょ?」 「うるさい」  背中を撫でで慰めながら正直な気持ちを伝えたらようやく泣き止んだ円歌。最後には睨みつけられたけど、涙目だから全然恐くない。 「ていうか円歌、今中途半端で辛いんじゃないの?」  抱き寄せて耳元で囁くとピクリと反応する体。黙っているけど、たぶん図星。 「さっきの続き、していいよ?」  顔の前に手を出したら意図が分かったのか円歌は耳を甘噛みして反抗してくる。 「意地悪しないで……」 「んー……もうちょっとおねだりして?」 「今日ほんと意地悪……」 「たまにはいいでしょ?……ね、早く」  余裕ぶってるけど私も限界が近かった。円歌と同じように私だって久しぶりなのだから。今もほら、余裕がない円歌が誘うように積極的なキスをしてくれるだけで、理性が無くなりそう。 「葵、お願い……葵に触れて欲しい……」 「うん、良くできました」  本当はもっと意地悪したかったのに。久しぶりに円歌から誘われてしまったら、これ以上抑えることなんて出来なかった。 「――あぁかわいかった……たまには円歌から誘ってね」 「……ん」  存分に愛し合い、お互い微笑みあって目を閉じた。
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