春(葵編)

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春(葵編)

 寧音が円歌と住む我が家に遊びに来た。ただ話をしているだけであっという間に時間は過ぎていく。 「あ……電車止まってるみたい」  夕飯も一緒に食べて、そろそろ帰ろうとした時に限って寧音が乗る予定の電車が止まってしまったようだった。 「もう少し居ても良い?」 「いつ動くか分からないし、今日は泊まったら?」  円歌の提案に私もそうした方が良いと思ったのに。 「え、でも葵ちゃんが……」 「私が何?」 「もう帰って欲しいって思ってるだろうから」 「そんなこと思ってないですー。まったく。いいよ、泊まりなよ」  寧音はすぐに私のことをイジってくる。円歌のこと、独占したいでしょう?って言わんばかりの笑顔で、楽しそうに。 「葵ちゃん我慢出来る?私が寝てるからって円歌に手出さないでね?」 「出来るわ!何言ってんだ!」  この人と志希先輩は一緒にいるだけでそれなりのカロリーを消費している気持ちになる。つまりは疲れる。 「はぁ……先お風呂入って来なよ」 「ありがとう。円歌も一緒に入る?」 「うん!」 「ダメ!」  円歌を肩を抱えて阻止したら寧音は楽しそうに笑っていた。というか円歌も素直に受け入れないの。本当に無防備なんだから。 「――私ソファでいいよ?」 「いいよ二人で寝なよ」  お客さんとして招いてる寧音をソファで寝かすのも気が引けて、私がソファで寝ると言った。あまり本意ではないけど。 「私がソファで寝ようか?」  円歌が気を遣って提案するけれど、そうしたら私が寧音と二人でベッドに寝ることになる。そんなの晴琉にバレたら絶対不貞腐れて面倒なことになる。晴琉も円歌には甘いから、私がソファで寝るのが最適解なのだ。 「大丈夫だから……ほら、もう寝なよ」 「……おやすみのちゅーは?」 「え⁉」  リビングにあるソファを陣取って、二人をベッドルームへと追いやろうとしたら、円歌に袖を掴まれた。寧音がいるのに何を言っているのだろう。 「いや、え、い、今?」 「……じゃあ私がしようかな」  まごつく私を差し置いて円歌の横に来た寧音が、軽く円歌の頬にキスをした。呆然とする私と驚きながらも満更ではなさそうな円歌。 「はぁ⁉何してんの⁉」 「何?葵ちゃんもして欲しい?」 「え、ダメ!葵には私がする!」  寧音の言葉に慌てて円歌が私と寧音の間に割り込んできて、そして私の頬にキスをした。 「おやすみ葵」 「あぁ、うん、おやすみ……」 「もういい?眠いのだけれど」 「あ、うん、寧音こっち」  円歌はあくびをしている寧音の手を取って、ベッドルームへ向かった。二人を見届けて、ソファに寝転ぶ。また寧音におもちゃにされてちょっと悔しい。でも、寧音の言葉に慌てる円歌、かわいかったな。円歌にキスをされた頬に触れて、にやけながら目を閉じた。 ――後日談。 「おやすみ晴琉ちゃん……晴琉ちゃん?どうしたの?不貞腐れた顔して」 「円歌にはおやすみのちゅーしたって」 「あぁ……これでいい?」 「ほっぺじゃヤダ」 「じゃあ晴琉ちゃんからして?」 「ん……おやすみ寧音」 「……おやすみ(満足そう……かわいい)」
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