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そんなある日、私のスマホが壊れてしまった。
道路で手を滑らせて、アスファルトに落としたら、蜘蛛の巣状の白いヒビが画面を覆い、電源がつかない。
友達からは、
「それもう買い替えるしかなくない?」
と言われ、私も完全に同意見だった。
お父さんが、ネット注文で新しいスマホを取り寄せてくれた。
送り状に書いてあるのは、聞いたことのない業者名だった。お父さんが調べた中で、一番安かったらしい。
自分の部屋で、ベッドの上で箱を開けて、中に入っていたスマホを取り出す。
さっそく電源を入れてみた。
でも、つかない。液晶画面は黒いままだった。
「あれ、電池ゼロなのかな」
電源ボタンを、繰り返しかちかちと鳴らす。
それでもやっぱり反応がないので、充電器をスマホにつないだ。
待つこと、十五分ほど。
もういいだろうと、私は再びスマホを手に取った。
かちり。
電源ボタンを押す。
でもつかない。
画面は真っ黒のままだ。
「あれ。まさかだけど、すでに壊れてるのかな。安かったみたいだからなあ」
ほかにどうしようもなく、かち、かち、とボタンを押し続けた。
すると、ほんの一瞬、黒い画面の全面に一瞬だけ白いノイズが走って、また真っ黒に戻った。
「あ、今ので電源入ったのかな。こういう、ついてるんだかついてないんだか分からない時間って、地味に困るんだよね」
前のスマホでも、再起動したり一度電源オフにしてから立ち上げる時、似たようなことがあった。
これでしばらく待っていれば、メーカーのロゴが出てきたりするかな。
するともう一度、ぱっと一瞬だけ白いノイズが画面を覆って消えた。
そしてまた真っ黒。
もう、黒はいいってば。
だんだんいらいらしてきた。
知らない業者からきたっていうのも少し気味が悪くて、そのせいか、私は、スマホ男の話を思い出した。
でも、今のところ画面の中には男どころか、アイコン一個も見当たらない。
そういえば、電源がオフのスマホの画面には、スマホ男は現れるんだろうか。
電源が入っていないと、出現できなさそうなイメージだけど。
そうだとすると、もしこのスマホの中にスマホ男がいても、今のままでは言葉を交わすことも目を合わせることもできない。
そんなくだらないことを考えながら、電源ボタンをかちかちと押す。
よく見ると、画面の黒色は一様じゃないことに気づいた。
中心にひときわ濃い黒色の円が合って、その周りに、放射状に筋が走ってる。
それを見て、自分でも、なんでそんなことを思いついてしまったのか分からないのだけど。
……これ、黒目?
そう思った瞬間、また白いノイズが走った。
これはまばたきだ。
巨大な眼球の中心が、画面の中から、じっと私を見ている。
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