スマホ女

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■  そんなある日、私のスマホが壊れてしまった。  道路で手を滑らせて、アスファルトに落としたら、蜘蛛の巣状の白いヒビが画面を覆い、電源がつかない。  友達からは、 「それもう買い替えるしかなくない?」  と言われ、私も完全に同意見だった。  お父さんが、ネット注文で新しいスマホを取り寄せてくれた。  送り状に書いてあるのは、聞いたことのない業者名だった。お父さんが調べた中で、一番安かったらしい。  自分の部屋で、ベッドの上で箱を開けて、中に入っていたスマホを取り出す。  さっそく電源を入れてみた。  でも、つかない。液晶画面は黒いままだった。 「あれ、電池ゼロなのかな」  電源ボタンを、繰り返しかちかちと鳴らす。  それでもやっぱり反応がないので、充電器をスマホにつないだ。  待つこと、十五分ほど。  もういいだろうと、私は再びスマホを手に取った。  かちり。  電源ボタンを押す。  でもつかない。  画面は真っ黒のままだ。 「あれ。まさかだけど、すでに壊れてるのかな。安かったみたいだからなあ」  ほかにどうしようもなく、かち、かち、とボタンを押し続けた。  すると、ほんの一瞬、黒い画面の全面に一瞬だけ白いノイズが走って、また真っ黒に戻った。 「あ、今ので電源入ったのかな。こういう、ついてるんだかついてないんだか分からない時間って、地味に困るんだよね」  前のスマホでも、再起動したり一度電源オフにしてから立ち上げる時、似たようなことがあった。  これでしばらく待っていれば、メーカーのロゴが出てきたりするかな。  するともう一度、ぱっと一瞬だけ白いノイズが画面を覆って消えた。  そしてまた真っ黒。    もう、黒はいいってば。  だんだんいらいらしてきた。  知らない業者からきたっていうのも少し気味が悪くて、そのせいか、私は、スマホ男の話を思い出した。  でも、今のところ画面の中には男どころか、アイコン一個も見当たらない。  そういえば、電源がオフのスマホの画面には、スマホ男は現れるんだろうか。  電源が入っていないと、出現できなさそうなイメージだけど。  そうだとすると、もしこのスマホの中にスマホ男がいても、今のままでは言葉を交わすことも目を合わせることもできない。  そんなくだらないことを考えながら、電源ボタンをかちかちと押す。  よく見ると、画面の黒色は一様じゃないことに気づいた。  中心にひときわ濃い黒色の円が合って、その周りに、放射状に筋が走ってる。  それを見て、自分でも、なんでそんなことを思いついてしまったのか分からないのだけど。  ……これ、黒目?  そう思った瞬間、また白いノイズが走った。  これはまばたきだ。  巨大な眼球の中心が、画面の中から、じっと私を見ている。
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