黒が闇に解ける、その先に

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「俺も雅も実際にその戦いを見たわけではないし、母さんも父さんも参加していた訳じゃない。皆が言っていたこと全てが正しいことじゃないことも分かってるけど、その人たちがいなければ、少なくとも今の生活もないのかな」 『幕府に尽くすことは当然だった。多摩が平和だったのは間違いなく幕府のお陰だったから、恩を返すじゃないけど、助ける為に皆戦うことを選んだんだ』 俊太郎がよく遊びに行っていた同じ村のツルという女性はそう言っていた。ツルの息子も幕府に尽くす為、多摩を出て戦に参戦したが、そこで帰らぬ人になった。ただツルは幕府を憎むこともせず、戦地に赴いた息子を慈しみ称えていたのが、俊太郎にはどうにも釈然としなかったのだ。 「たとえその戦が無謀なことだと分かっていて、目の前に死があっても……黒くなっても生きた証は残るってことなのか…………」 俊太郎は一年前に聞いたツルの話を思い出して、呟いた。当時の釈然としない記憶が、ふと克治の思いも相まって落とし込まれたように脳裏に(はま)ったのだった。 「……ツルさんのお話?」 俊太郎の呟きを聞いていた雅も首を傾けた。俊太郎は「そう」と頷いてため息をつく。 「ツルさんや父さんのように戦った人を褒める人もいるし、母さんのように戦を嫌って幕府も、その配下にあった新選組も、他の組織だって嫌う人もいる。でもその考えが間違ってはないけど、雅が言っていたように語る権利くらいはあるよね?」  自分に言い聞かせるように呟いた俊太郎に 「まちがってないよ、兄やんは」  すぐに被せるように雅は言い切った。その雅の返事に、俊太郎は急に力が抜ける。 「さぁて、寝ようかな……。何だか、父さんの話したら眠くなってきた」 「……うん!あ、もう一回ミヤお仏壇に手合わせてこようっと。兄やんも一緒に行かない?」  雅は立ち上がって、俊太郎を上から見つめる格好になる。その表情と()は初めに来た時の星のような煌めきを纏っていた。 「分かった、行くよ」  俊太郎は雅に笑みを返すと、そのまま立ち上がり二人で仏壇の方へ向かって行く。背中には満月になろうとしている月と星々が、何か証を残さんとばかりに煌めき続けていた。
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