黒が闇に解ける、その先に

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「まぁ見られるんだけどね。単に俺が東京の町に合わないのかもしれない」 「……そうなの?兄やんもう三年くらい働いているんじゃなかったっけ?」 「そうは言っても慣れる人もいるし、そうじゃない人もいる。ずっと町に住んでいる人はこんな田舎住めるの?って思うのかもしれないよ?」  その発言に雅は「えぇー」と納得出来ないような目で俊太郎を見つめていた。 「ほら、立派な家に住んでいる貴族階級の人とかは、俺らの家をみずぼらしいと思うんじゃない?」 「この家が?何で?ご飯皆と一緒に食べたり、ねたり出来るんだよ?それがダメなの?」 「大きい家は一人の部屋があるんだよ、雅の歳でも。誰にも邪魔されないし」 「別に……。ミヤは皆と一緒に居て、畑でお仕事する方が楽しいから、一人の部屋なんかなくてもいい。ここはね、皆やさしいから」  澄んだ瞳を俊太郎に向けて、雅はニコリと微笑んだ。喧騒が立つ町中とは裏腹に交通面には少々不便な実家ではあったが、それ以上に人の温かさと繋がりの深さには俊太郎も勝つことはないと思っていた。 「そういえば…………」  俊太郎はふと呟く。その脳裏には、父がいた。 「父さんも優しかったなぁ……。よくさ、こうやって空を見て色々話してくれてさ」 「うん、ミャもいっぱい話した!武士の話もしてくれたなぁ……」  二人の父、克治(かつじ)は六年前に世を去った。元来心臓が弱く、働きに出ることをほとんどしなかった克治を俊太郎たちが最期に見送ったのが、今日のような星が瞬いていた夜だった。 「お父さんね、武士はカッコ良かったって言ってたの。父さんは百姓の出だから皆で木刀持って遊んでたんだって」 「俺は武士になりたかったかって聞いたら、憧れはあったけどなりたい訳じゃなかったって言ってた。やっぱり斬り合うのとかは理解出来なかったって」  克治の青春時代は、所謂(いわゆる)幕末の真っただ中だった。そして克治が育ったこの多摩地域では多くの者が国と為と戦に繰り出していったのだった。
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