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「ミヤもあんまり分からないかな……。お父さんが刀持ってる姿なんて想像出来ない」
「分かる。さっきも言ったけど、父さん優しかったからさ……」
そう言った後、俊太郎は少し押し黙った。その様子を不思議そうに雅が見つめていたが、俊太郎はまた話し始めた。
「武士って、そんなに偉かったのかな。俺も教師だし、教えてはいるけど、数十年前にあったこと生徒たちにちゃんと教えられてるかと言えば何か違う気もするしな……。そういうのって、俺よりももっと上の人が教えられることもあるかもしれないし」
雅はそんな俊太郎の話を聞きつつ「そんなことないと思うけどなぁ」と脚をブラブラしながら呟いた。
「ミヤね、生まれる前のことはよく知らないんだけど、ここら辺で色んな人が戦ったってことはお父さんとかお爺ちゃんお婆ちゃんからよく聞いたの。その聞いた話、周りの子ともお話しするし、お父さんと同じ年の人とも話したことあるの。でもそれが悪いとかじゃなくて……伝えないといけないと思うんだ」
俊太郎は雅の言葉に、目を見張った。雅と話す時は他愛のない話ばかりで、難しい話は一切して来なかったからだ。
「お父さんね、よくお空を見ては『皆元気かな』って言ってたの。風邪引いてなかなかお外に出られない時、お空見て『あんなにも黒に負けない輝きは、人が力強く生きているのと一緒だ』って。『父さんはあんなに強くないけど』って笑ってよく言ってた」
雅は視線を俊太郎から、闇夜に浮かぶ星に移した。俊太郎は雅がいつの間にか大人になったのだと、家にいない間の日々を痛感する。
「じゃあ、雅は新選組の話も聞いたの?」
「新選組……?あ、うん。聞いたことあるけど……あんまりいい話は聞いたことない。この多摩の人たちがいっぱい居た集団なんでしょう?」
雅がふと俯いたが、それもそうだろうと俊太郎も頷く。新選組は多摩出の人たちが中心となり結成された浪士隊の名前だ。徳川幕府側に仕えたものの、鳥羽伏見の戦で負けたことをきっかけに敗走、皆がバラバラになり、最終的には最北の地で散ったとされているからだ。
「でもそんな人たちでもお父さんにとっては、あこがれだったのかな……。ミヤならそんな話思い出したくないから言わないけど、お父さんは話してくれた。それって伝えることを教えてくれたんじゃないかなぁって。この闇みたいな黒い中に閉じこめたらいけないって思ったのかなって……」
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