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そんな中、玲は燈也の腕を掴んだ。必死に、これ以上はさせないとでもいうように。
燈也の意識が一瞬玲に向くと、不良達は今がチャンスとばかりに倒れる仲間も連れて逃げ出した。飽きたのか、元々蟻としての認識しかないからか燈也はわざわざ追いかけはしない。
それよりも、今はこの腕を掴む玲が気になった。震える体で、自分だって怖い思いをしたのに行動する彼女。その顔に涙の跡はない。
「おまえ、こんな時でも泣かないんだな」
燈也は思わず呟いた。実験で痛い目にあっても泣かない、こんな襲われかけても泣かない。いったいどこにそんな強い精神があるというのだと、怪訝そうにする。しかし、玲の答えはいたって単純だった。
「あんな奴らに負けたくない」
今まで震えていたのに、凛とした声でハッキリと告げる玲。燈也は予想外の返答に呆気にとられる。そんな理由で?と、バカバカしいとさえ思えた。
「あいつらは逃げたんだから、お前の勝ちだろ」
燈也が嘲笑うように答えてやると、そんな言葉でようやく実感が湧いたのか、安心した玲はそこで初めて涙をみせた。
「こわかったっ……すごく、怖かった……!」
顔をくしゃくしゃにして泣き出す玲に燈也はどうしていいのか分からず、戸惑った。とりあえず乱れた制服を整えるように言う。それにコクンと頷いた玲はおずおずと口を開いた。
「……ありがとう」
「別に……」
お礼を言われる理由が分からなくてそう告げると、玲は小さく笑った。いつもの怒っている顔とは違う表情を見せられて、燈也の心臓はドクンッと高鳴る。
ーーなんだこれ……。
今まで感じたことのない気持ちに燈也の心は揺れる。もっと違う表情も見てみたいとすら思う。
だけど、そう思っても自分に素直になれない燈也は悪態をついた。
「ふっ……泣き虫」
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