2人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる燈也に玲はますます顔を歪めた。それは嫌悪というより呆れている表情に近い。
「ばかだな、おまえは」
「んだよ、それ。俺はおまえがモルモットとしてーー……」
そう言いかけた燈也の口元に玲が指を当てる。それ以上は言うなと行動で示されて、燈也は口を閉じた。そんな燈也に玲は小さく笑う。
「私は実験動物じゃない。おまえと同じ、ただの人間だ。それ以上でも以下でもない」
きっぱりと言い放った玲の言葉に燈也は驚くと同時に胸がザワつくのを感じた。今まで感じたことのないそれ。
黒の王様と一部から崇められ、一部から畏怖の念を送られきた燈也にとって、初めての対等なやり取り。
ーーただ、純粋に、痺れる。
「っは!そうでなくっちゃなぁ、玲」
「は?おい、なにニヤニヤしてんだよ。怖いぞ。おい、くるな!」
「誰が離すかよ。俺から離れるな、玲」
「だから、なんなんだよ!おまえさっきから気持ち悪いぞ!」
逃げ出そうとする玲を捕まえて腕の中に閉じ込める。玲はジタバタするが、力で敵うはずがない。次第に諦めたのか大人しくなった。
「……最悪だ」
玲は大きなため息を吐く。それはどこか気恥ずかしいからで、早く離れたいという思いもあっての行動だと燈也は分かっていた。だけど離さない。この腕の中の存在をもう離したくないとすら思うのだ。
「俺に目をつけられた時点でおまえに勝ち目はねぇよ」
燈也は楽しそうに笑った。その状態のまましばらくすると空の色がオレンジから黒に変わる。玲がようやく解放された頃には辺りはすっかり夜になっていた。
暗がりの夜。住宅街は静かな灯が照らし始める。
「もう、黒一色だな」
「夜のこと言ってるのか?」
「ああ。こんな闇、黒って言い表す他ないだろ」
燈也がさも当然のようにそう言う。その声色は、なんだか少し寂しげだった。
最初のコメントを投稿しよう!