第一章./私とあの人とあの男。

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 いや、  ・・・・なんで私の考えてること分かるんだ、この人。  そんな意図の含んだ目を、向けていたに違いない。  若干、ギョッとした表情の私と視線がからみ合うとシルバーブルーの頭の彼は、  不躾であるにもかかわらず。  銀水晶のような、その美しい双眸で、私を見下し  「テメぇーは判りやすいんだよ」と。一度だけむぎゅ、っと両頬を掴まれてしまった。  「ぃっ…い、たぃ」  「フッ。ブッサイクな面してんなぁ」  「…じゃあ離してよ、」  ペシペシ、無骨な指たちに挟まれた頬を助けるべく  叩いてギブアップすれば割と  すんなり、解放してくれたけれども。  結構な力加減で掴まれたせいか、フェイスラインの頬骨あたりが、痛いし  (ともかく)痛いわ。  私、一応、女の子なんですけど?  なぜいつも粗雑な扱いされるんだ、などなど心のなかではムッとする他ない。  しかし、このまま堂々巡りではさすがに状況も動かないので  さすさす、頬骨に手のひらを当てがってあげつつ「…名前、教えてもらっても良いですか」と再度、  尋ねてみる事に。  「リー・アーウェイだ」  「え?」  ・・・・・りー、  あうぇい、・・・・away?  え?なんて?  私も日本人とは思っていなかったが。  まさかの、がっつり外国籍の名前じゃないか。  「…オ゛イ、二度も言わせんな。リー・アーウェイ、だ。わかったか?わかったな?覚えたな?」  「え。いっ、いやちょちょちょっ、(そんな性急に覚えらんな、)待っ、…」  「んで、コイツはウォン・カーフェイ」  「……………はぁ、…はぁ?」  あー、うぇい?かー、ふぇい?  なんか『リムジン』とか、そーゆー高級な車種の呼称にありそうな変わった名だな。  「……ぇ。なん、あの、なんて呼べば良いですか?」  外国のお友だちを作ったこともなければ、海外に赴いたことすら、経験がないため  どんな風に、呼ぶのが正解なんだろう?  だって、絶対。  この人たち私が想定している以上のお偉いさんである。事に  違いないだろうし。  ・・・・・・と言うか、  えっ?  今さらだけど良かったのか?  こんな生意気な口聞いてて・・・・・。  そうやって脳内が、勢いよく、  ありったけの情報操作をしていくと理性が追いつき始め。  自分の無知さかげんの対応の無礼さが、走馬灯のように  一瞬にして、頭上を突っ走ったから。  さすがの私も危惧の念が、足音を忍ばせてやって来ているように思う  のはやむを得ない。  しかし急にオドオドし出した、そんな態度の変動には、何を思ったのか。  ぽすん────…。大きな手のひらが乗せられ、  優しく髪を撫で下ろしながら「…今さら態度を急変されても困る。お前は、そのままでいい」と。  思わず、口を噤んでしまうほどの真剣な声が降りかかったのには、  齷齪(あくせく)しだした心も一旦、落ち着き払って安堵の息を、吐き出せた。
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