第一章./彼(あ)の方と彼の方

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 落ち窪んだ目に映りこむ三者の、洗練された品格、所作、  清廉な美貌。  長年、連れ添っておられるかのような"()の方々"と"彼女"の、  独特な空気感。  ・・・・・悔しくて、  不粋にも歯噛みをしてしまった。  『国家賓客(ひんきゃく)』とは────もとい、今回の場合は特別な認可が下り、  規制されずに  出席することが叶った数すくない好機であったが。  通常、招待を受けていない二流・三流の財閥家や成金、  芸能関係者などの人間が  やすやすと入場を許諾されるのはまず、有り(てい)に言っても  皆無。  しかし今や、この日本金融にとどまらずあらゆる機関、経済界や、  海外でも名を挙げられている"彼の方々"には「今後ともご贔屓(ひいき)に」と。どうやら国は、  恩を売りたかったのだそう。  こうして、手広く展開されておられる経営手腕の持ち主の"彼ら"に、  胡麻擂(ごます)りさながら(────の半ば、強引に)お願い出たようだけれど、  ・・・・・それにしたって、  なんて美丈夫なの。  竹倉の、「お嬢様、お手を」の催促に、差し出された手の平を掴むと  足を引っ掛けないよう、もう片手はドレスの裾を摘んで  歩みを進め。  わたくしは目にいっぱいに映し込む"御二方"を目指して  人集(ひとだか)りの隙間を縫い"彼"に、"彼の方"に、近づいていく。  来賓のなかには  VIPや政財界の重鎮(じゅうちん)、各国の大使館までもが  わざわざ来日されていて。  その目線は  決まって"彼の方々"と、"彼女"がいる前方へと向けられている。  一目置かれた距離を、  上品に保って人垣の割れたホール会場の中心にいらっしゃる"彼の方"は、何やら  主宰(しゅさい)と一言、二言交わしているご様子。  艶やかな紺青(グレーブラック)の髪はバックに、(わか)つ前髪が片方だけ波をもたせ、  それは  隠れた右側面の面立ちがより、  神秘的でミステリアスに"彼の方────カーフェイ様"を仕上げているようだった。
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