第一章./彼(あ)の方と彼の方

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 いつ、いかなる催事においてもカーフェイ様の傍らには、必ず、  黒服のSPと、アーウェイ様が控えていらっしゃる。  そうであるからして、安易には  ()の方に近づくことすらできないのが催事場(さいじじょう)での常。  ────リー・アーウェイ。  カーフェイ様とは旧知の仲であり、  仕事上でも側近として手となり、足となり彼の方を支えていらっしゃる。  ・・・・・非常に  忠義心にあふれた男だ。と。  しかし────…。  大臣から謹聴(きんちょう)した話によると、  彼は多忙なカーフェイ様の代わりに、『殺し屋』『始末屋』としての異名をもち。  その背面では、制裁対象を収監し、重罰をくだしている。との噂も聞く、と。  交流を深めたいのであれば、(────薦めはしないが)その旨、服膺(ふくよう)し気を赦さぬよう。  ・・・・・そう、  青褪(あおざ)めたお顔で苦言を呈されていたことを。  ・・・・だけれど今宵は、  "彼女"も参列なさっているからか。  歴然として男性だけにとどまらず、女性たちの士気さえ  上げに来られているようにも窺える。  ────「アレはっ…!松泉寺(しょうせんじ)家のご令嬢ではないか!?」  ────「ハリウッドに渡米されたのではなかったのか!?」  浮き足立つのはおもに、男性陣諸君。  彼らは表情に嬉々とした色をうかべ、その様相はあどけない面立ちへと  入れ替えていく。  ────「いやぁ〜しかし…、いつ見ても麗しいお方だ。是非お近づきになりたいもんだなぁ」  ────「ハッ!よしてくれないか西条殿。あの方は東洋の女神だ。(わし)らごときが触れ合っていいお方ではありますまい」  ────「ははっ。…あぁ、違ぇねぇ」  ひそひそ、と並べたてていらっしゃる賛辞はどれもこれも、おべっかの通りである。  紳士方は蓄えた自身の顎髭(あごひげ)を撫でおろしながら  美辞麗句(びじれいく)で"彼女"のことを誉めそやし。  一方、女性たちは一様に距離をとった輪のなかで  遠くから脚光を浴びている、  この御三方を、ただ、────我を忘れてうっとり、  惚けるばかりの様子であった。  ────「…あぁ、なんてお似合いなのかしら」  ────「茉美子(まみこ)様は(わたくし)たち女性の(かがみ)だわ。彼の方々と肩を並べても、忖度(そんたく)なくお似合いだと言えますもの」  ────「ほんとねぇ」  ────「ほんとよぉ」
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