第一章./彼(あ)の方と彼の方

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 "彼女"────松泉寺(しょうせんじ) 茉美子(まみこ)様のことを。  ただの私欲で虫が好かない。などと嫌疑(けんぎ)をかけるのは  (少なくとも、)この会場内では、  わたくしだけに限られることではないかしら。  ・・・・彼女のことを、  ライバル視しているとは言えやはり、心持ちは宜しくない、  ────松泉寺(しょうせんじ) 茉美子(まみこ)。  彼女は、松泉寺財閥の1人娘で、  社交界でも群を抜いて  なまめかしく、華やかにお美しいお方であらせられる。  現在は、世界有数のファッション業界を誇る、本場イタリア・ミラノで  モデル活動をなさっていらっしゃるのだとか。  それがゆえに、必然と富豪家や大使館など、(主に、紳士であれども)ひそひそと  好ましくない雑談をひけらかしている事には。  ────…実のところ  気分が悪いと言わざるを得ない。  わかっている、なんだか矛盾した感情だと。  烏滸(おこ)がましくも、茉美子様をライバル視しているのとは相反して、  憧憬(しょうけい)しているからこそ、下卑た目で彼女のことを  見ないでほしい。  (…なんて品のない、……。なんでも賛辞すれば良いというものでは無いと言うのに、)  見え透いた下心がありありと感じ、どうしたって茉美子様を  不憫に見せてしまっているようで、いただけないわ、と。  わたくしは奥歯を噛み締めるしかなかった────…。
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