第一章./彼(あ)の方と彼の方

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────────── ─────  ────…宵の闇がすこし、更けてきたころ。  たった数分で一言、二言。  ビジネス会話をかわし終えてしまうと、カーフェイ様は(────当のカーフェイ様は一度も、言葉を発されなかった)  側近のアーウェイ様をともなって、  日本の大使館のもとへと。  足早に、  わたくしの前から身を  退(しりぞ)かれてしまったのである。  ・・・・・その(かん)、一度たりとて  カーフェイ様の目にわたくしは写されていない。  ただ、アーウェイ様からの  慇懃(いんぎん)なビジネス術の斡旋(あっせん)を拝聴していただけで・・・・・。  「────いかが致しますか?お嬢様、」  「構わなくてよ。お帰りの際にもう一度、()の方々にお近づきになれるよう、うまく取り計らってちょうだい」  「畏まりました」  侍従の竹倉(たけくら)に、あとの指示を口頭でつたえ彼が会場をでた気配を確認してのち、  わたくしは計画を遂行するべく、"その瞬間"の機会が訪れるのを────…  、待つことにした。  最高級の品揃えでディナーテーブルを飾る、ブュッフェ形式の料理品から  (あつもの)を口に吸いながら。  大使館とお話しされている御二方に、  神経を尖らせて・・・・・、  ────「嗚呼、お美しい。ほんとうに。この世の造形とは思い難い方たちですわ」  ────「それより聞きました?関子さん。日本の若手女優の皆さんは、必ず、カーフェイ様やアーウェイ様と御目通しが叶うらしいって噂」  ────「えぇっ、うそぉ!それ本当?」  ────「蝶子さん、それっていつものデマなんじゃなくって?」  ────「それがねぇ〜、そうでもないみたいなの。アタクシも詳しくは知らないのよ?知らないのだけれど、とある筋の情報からだから、今度は確実よ」  恐らく、招待客ではないであろう貴婦人方が、ひそひそと  談笑に花を咲かせている  その内容の旨が、  この迎賓館(げいひんかん)に集う女性たちの、本願といったところであろう。  ・・・・・・そう、かく言うわたくしも、  そのなかの一人。
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