第一章./私とあの人とあの男。

2/11

13人が本棚に入れています
本棚に追加
/102ページ
 §  ────…ボーン、ボーン。と重たそうな昼休憩の(チャイム)が鳴る。  時刻はちょうど、  13:00を報せたところ。  各々が、定型文句の「お疲れ様です」を締めの挨拶に、  快い会釈(えしゃく)をしていきながら、私も「お疲れ様です」と応答して  作業フロアを、退く。  必要な持ち物だけを持参し、  職員通路の階段をかけのぼっていくと、警備室といっしょに、  警備服に身を固めたおじさんが窓口からいつものごとく、  静かな相槌(あいづち)を打ってくれて。  私もそれに、  軽く、低頭して玄関口を出ると、  冬の寒風がヒヤッ、と首もとを取り巻いたので咄嗟に、  亀のごとく、首をきゅっと竦めてみせた。  ・・・・・寒。  そう言えば今年、温暖のせいか寒波がくるの遅め、ってニュースで言ってたっけ、・・・・。  もう、気付けば暦は12月。  「寒い…」とは言え、まだ、気温はマイナスにも達していない現状。  ふさふさの、ファー付きフードのジャンパーを、しっかり着ても、すこし暖かい。と  感じるぐらいだから、  どちらかと言うと、暖かさに慣れすぎて  からだが付いていけて無い、というほうが逆に、しっくり来る。  そんな、割とどうでも良いことを頭の片隅で、ボソボソ  独白として呟いていたら────、  (はす)向かいの、横断歩道を渡った先にある、ベンチのみの、  ヒッソリとしたアーチ型公園。  その、真反対側の入り口に、  このご時世でありながら堂々と路上駐車を横行している、  一台の黒塗りの、  …それも絶対、お高いであろう『リムジン』というブランド名の車種が、  視界に、突飛な金額かのごとく、飛び込んで来て  思わず。  ハァ…ーー、と。もう、何度目かもわからないため息が溢れた。  ・・・・・いつになったら、辞めてくれる  かな。路上駐車、  毎度毎度、忠告(したくなくても)してしまうこちらの身にもなってほしいが、…。  一度だけ、ほんとに警察にお世話になったことがあってから、一般市民としては  肝を冷やす思いだ。  ────…警察のひとも、  あの人たちがどういう職に就いているかは凡そ、  見当はついていて。  そしてそう易々と、  一警察官では、介入できない立ち位置にいるということも知っている。
/102ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加