第一章./体調不良

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 ふわりと香る、いつもの男のアロマの匂いと、車内のなかにひろがるスカッシュ系の芳香剤の匂い。  匂いには敏感な私でも決して、下卑た印象を受けない程度の上品な香りは、逆に、心地がいいとさえ思えるほどだった。  ・・・・・まぁ、若干、煙草のにおいも混じってる感じではあるけれど。  いや、待って。  そんなことよりも────…、  「……ぇ。なに?」  「ナニが何だ」  「座りたい」  「座ってんだろ」  「いや違う、シートに」  「却下」  「……ぇ?なんで?」  口元をひくつかせて眉を寄せていた私だったが、ちら、と見上げた視線の先のアーウェイさんは  意味深に、フルスモークの窓の外を、眼光鋭く見据えていて。  その顔はいつもの、ふざけた感じではない、本意気のものだったので。  反駁(はんばく)しようとした口を咄嗟に、キュ、と仕舞い込んで様子をうかがった。  「────撒けるか」  「いえ。今のところ動きはないようです。先ほどの場所から追ってくる様子もありませんので、恐らくは会場の招待客か来場者の一端(いったん)かと」  「…チッ、SPを付けなかったのは誤算だったか。しゃあねーな、コイツがとっとと一人で帰ろうとしてるって連絡が急だったしよ」  「…」  「えぇ、わたしも含め常に6人体制で監視を行ってはいるのですが。……なにぶん、お嬢さんにはコチラの面が割れていないものですから」  「…」  ・・・・・な、なんか。  頭上の男と、後部座席のカーテンで遮られた先の運転手さんとで、なぜだかフツーに、淡々と会話が繰り広げられてるけど、  まさか、私。  ・・・・・のことじゃない。よね?  と眉を寄せて悶々としていたら、  「オイ、テメェのことだぞ乳なし。連絡は絶対ぇ入れろっつっただろーが聞いてんのかアホなす」  「……は?」  「…お前ケンカ売っ、」  「メールした」  「せめてLINEにしろっつってん、」  「既読とかつくの見るのしんどい」  「……お前なぁ」  ・・・・・なんだよ。  ちょおーーっと優しいと思ってたら、ただの勘違いだった。
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