第一章./私とあの人とあの男。

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 「…フゥ、」  白い息とともに、冬らしい季節の変革を視野に、取り入れながら。  私は、スーッと鼻から深呼吸をすると、肺にはいった空気を  今度は、口から小さく吐き出し。  縮み上がっていた体内の、凡ゆる器官をほぐしたあと再び、  立ち止まりかけていた重い足を、  車体を横付けにしている、公園の入り口傍まで、運んでいった。  ────コンコン、  腰を屈め、後部座席側のフルスモーク硝子(ガラス)をいつものように、軽く、ノックする。  すると、  すぐに下に降りたウィンドウから、サングラスをかけたグレーブラックの髪の男が、「…終わったか?」と。  なんとも、絡みつくような甘い重低音で私に問いを、投げかけたのだ。  「……はい。今、お昼休憩になりました」  「そうか」  ふ、と綺麗な薄い唇が、甘やかに弧を描いて和らいだかと思えば。  私の手首に吊り下がったシロモノを、薄暗いレンズ越しの奥の、流し目で捉えるなり、  瞬時に、眉間に皺を寄せ、  「…なんだ。今日は昼飯持ってきたのか」  「あぁ、…ぁっはい。いつもいつも(健康的な)外食。は、……ちょっと。申し訳ないです。し、」  お金もすべて持ってもらってる上、さすがに、してもらってばかりと言うのは、  気が引ける。  ・・・・それに、  肌の調子も自分で見たいから、  …と正しく心内(こころうち)でひっそり、思ったことだったのに、  それらを丸ごと、筒抜かすかのごとく。  彼の真横にいた男が、「…んあぁ、そういや最近、肌の調子悪ぃもんなァお前」と  いつものごとく軽侮(けいぶ)するように水を差したのである。  挙句、「おれが懇切(こんせつ)ていねいに手塩にかけてお前診てやってるってのに、その態度。あったく勘弁してほしいぜ」なんて。  まったく、一片も。  これっぽっちもデリカシーの欠片もない横やりには、さすがの私も  その、小綺麗に波うつシルバーブルーの、(持ち主とは、まったく釣り合ってない)  繊細そうな髪をむんず、と引っ張ってやりたい衝動に駆られたのは、  言うまでもない。  プカプカ能天気に煙草を吹かしながら、はんッ、と鼻で嗤って  毒づいてきたもんだから、今すぐ。  何ならその高い鼻梁(びりょう)をへし折ってやりたいぐらいだ。  「…余計なお世話ですね。だから言っ、」  「寒いだろ。中に入れ」  「……あ。あぁ、はぃ」  「ハッ。ガキか」  「…何か言いました?」  「貧乳っつった」  「ガキって言いましたよね」
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