第一章./私とあの人とあの男。

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 いつ、何時(なんとき)、乗車してみても慣れることはない。  バーカウンターのようにセッティングされた、シャンパングラスたちや、  質感のよい高級クッションシートで囲われた、リムジンの車内。  そこで豪快に足を広げて座る、  真正面の。  相変わらず、食えないような笑みを浮かばせて  乗り込んだ私を、紫煙越しに見下す、外見(だけの)派手な男。  若干、薄暗い車内でも艶めいて耀くシルバーブルーの髪が、ゆったり、ウェーブを描いて白皙(はくせき)(おもて)を縁取り、  幾房か、無造作に外跳ねしている。  きれいに楕円(だえん)を描いた、透きとおるような銀色の瞳。  高い鼻梁(びりょう)、ダークレッド色味の薄い唇。  猛烈に美しくて、かつ、野生みを窺わせるが甘さはなく、  決して、女性的にも見えない。  スーツ着のがたいも、そればかりでなく  衿もとが異様にはだけたシャツの隙間から除く胸板は、  しっかりと鍛えられたであろう、男性のもの。  皮肉っぽく笑みを滲ませたその男は、  指先に挟んでいた煙草を、吸い殻に捻りつぶすと「ホレ、診察すっから服脱げ」と。  これまた、セクハラ紛いのサイテー発言をするもんだから  私も応戦して「…髪散らかし男め、」と奮然として悪態をこぼした。  「あん?今なんつったお前、」  「髪そんなに禿()げ散らかして大丈夫ですかって言った」  「嘘を吐け嘘を。おれサマの耳は誤魔化せねェぞ。てめぇ今、「髪散らかし男」っつったな「髪散らかし男」って」  「…2回も言い直すくらいちゃんと聞いてるじゃないですか、」  「おれのは髪散らかしたウチに入んねーんだよ、天然だ天然。天からの授かりモンだばぁか。…非常識なことばっかヌかしてっと乳揉むぞ」  「……D以外は論外って言ったクセに卑怯者」  あー論外だ論外。Aカップもねー生娘が調子こい、…ごにょごにょ、とまだ、言い足りない様子であろう男のセクハラ発言は、総無視して  ストン、。  静かに鎮座する、もうひとりの彼の隣に、私も腰を据え直した。  同時に、動いた骨っぽい指先が  私の頬に伸び、宥めるように手の甲で撫でられると、  「…疲れたか、」と。  労う声音が落とされて、  「……ちょっと、だけ。たかだかアルバイト、なんですけどね…」
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