第一章./体調不良

31/32

14人が本棚に入れています
本棚に追加
/102ページ
 何かを考えこむように動いた純銀いろの眼睛(がんせい)は、口語はこぼさずに  指先だけが意味深に、口元に充てられ、片眉は吊り上げられている。  スモークガラス越しに、流れる情景を視野にとり込んで、そして  意味もなくうつした目線は、やはり、どうやってしても  ・・・・無意識に、  膝上にある少女の姿に傾いてしまうのだ。  コートに包まれながら、スゥスゥと肩を上下させて寝入る  小柄な肢体と、  うすく聞こえてくる淡い吐息。  紅は差していないにもかかわらず、薄く桃いろに染まった唇。  ・・・・近づけて、触れて、壊したい、  激しく。  どこか懐かしい感覚と直感が、体感のなかで懐古(かいこ)感をにじませ、  同時に、  自ずから閉ざしていたトリガーを、危うく引いてしまいそうになる  感情の昂揚感。  流れくるクーラーの風が、やんわり、伊万里から絡め取った  ほろ苦くも甘い、匂いを自分に運びこんで。  その事実に、千切れそうにもなる動悸の激しさには、  さすがにアーウェイも、小さく舌打ちを溢すしかなかった。  (…厄介だな)
/102ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加