第一章./私とあの人とあの男。

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 私の苦い返答に「…そうか」と。ひと言だけ返した彼は、かけていたサングラスを  流れるような所作で取り外すと、  その猛烈ばかりな美形の顔の整い具合が、惜しげもなく  あらわとなって、対峙することになった。  いや、ほんとに・・・・・何度、対面しても、  妙に肩に力がはいる、  浮世離れをした、人外レベルの、美の際限すらないだろう。と言わしめるような。  もはや、的確な言葉が見つからないほど。  オールバックにされた、絹糸のようなグレーブラックの、髪。  宝玉のように濃い、闇色の双眼(アイズ)。  左右対称に、完璧に配置されているのに、まったく見劣りしない  目、鼻、紅を差したような薄い唇。  玲瓏たる美貌はもちろんのことであるが、人間わざでは到底、  あり得ない美の彫像のような恰幅が、  高級スリーピーススーツの上からでも、窺い知れる。  手足は長く、足を組んでいる様すら拝みたおしたい長身であろうことは、  容易に、想像がつくだろう。  この容姿で、天才的にIQも高いという。  「天は二物を与えず」ということわざがあるけれど、ありったけ与えられている感じ。  ────うん、正しくはIQに関しては、  不躾な髪散らかし男のほうが上回る頭脳らしいが…。  それにしたって、  (…きっと、この人が脱いだら、世の女性たちは喜んで抱かれに行くと、────…否、脱がなくても。か)  ス、と下ろされた闇色の瞳とともに、伏せられた長い睫毛の、もっと奥、────…  どこか甘さを含んで、  その硝子(ガラス)水晶のような双眼に、反射した私を映したので咄嗟に肩がびく、ん。と吊り上がってしまった。  きっと絶対、おかしくおもわれたと思う。  ただ、伏せられた宝石のような両眼と、直に、目が合っただけで  ビクビクしてるんだから、  ────…そんなことを頭でひとり会話しつつ、  シルバーブルーの髪の、異様に美麗な男に、言われた(言われた通り。とは語弊があるが、)そのまま。  私は毎週の診察手順のごとく、ジャンパーを脱ぎ、  フードの毛皮(ファー)で隠れていた、首元を彼の前に晒した。  「…あぁ、先週よりは赤み引いてんな。だいぶマシになってきたか。……で?今は?どっか気になる、とかあるか」  「ぁ…、……えっと。時々あせも、みたいな痒みが。ちょっとだけ」  「ソレ前にも言ってたな。見た目は蕁麻疹(じんましん)とか湿疹(しっしん)みてぇに表面上出てるワケじゃねーんだが、……ちょっと顔見せてみろ、」  「っ、」
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