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2.ライヴ前の予感
ヴァイザスは収録場に着き、楽屋に入るとタバコを吸い始めた。
するとヴァイザス達の楽屋に、突然若い男性が入って来た。
「アイツ、ノックもナシに………」
「黙ってろよ」
ヴァイザスのバンド仲間である、中年の魔族と思しきドラマーのファルコンが怒りをあらわにするが、ヴァイザスは止めた。
若い男性は急にヴァイザスに近づく。
「アンタがヴァイザスさんかー。いやぁ、貫禄バリ感じるわ。あ、自己紹介してなかった。わいはボブや。よろしゅう!」
ボブと名乗る青年は、無表情のヴァイザスと握手をする。
「ほな、わいはここで」
ボブは楽屋を出る。
「俺、何か緊張して来た。トイレに行く………」
バンド仲間のギタリストである、風変わりな天族のジャドウが慌てて楽屋を出る。
ジャドウは途中でボブと肩を合わせて囁いた。
「本当に上手く行くのか??」
「任しとき」
ボブは自信満々に、オドオドしているジャドウにつぶやく。
ボブに警戒心を持つファルコンは、ヴァイザスに念入りに忠告を試みる。
「アニキ、あのボブって………」
「わかってる」
ヴァイザスは制止する。
「気を付けろよ。アイツ、キナ臭ぇぞ」
「メオスにも言われたぜ。俺はよっぽど嫌われ者らしいな」
ヴァイザスは高笑いをする。
ボブのユニットの次が、ヴァイザス達の出番であった。しかし、ヴァイザスは何故か気持ちのブレを感じ始めていた。
それにすぐさま気付いたファルコンが、ヴァイザスの手を取った。
「アニキ、手が冷たいじゃねぇか!?」
「いや………大丈夫だ………」
ヴァイザスは冷や汗をかいている。
「大丈夫なワケねぇだろ!スタッフ呼んで来る!」
「止めろ!!」
ヴァイザスは必死にファルコンを止め、瞳を閉じて耳を塞ぎ、深呼吸を繰り返す。
(何だ!?あのまばゆいオーラは………この俺を挑発してやがんのか?あのガキは!!)
ベーシストの人間であるムークは、静かにヴァイザスの背中をさすり、ジャドウはただビクビクしている。
しばらくしてヴァイザスの様子は一旦落ち着き、順番が回って来た。
ファルコンが心配する中、ヴァイザスは何とか歌い切ったが、客席や視聴者は違和感を抱えていた様だ。
収録後、ステージで再びボブが、何事も無かったかの様にヴァイザスにすり寄って来た。
「ヴァイザスはん、マジすげぇわ。また機会があったらよろしゅう」
「あぁ」
ヴァイザスは何事も無かったかの様に素っ気ない返事をする。
ボブがヴァイザスから離れると、すかさずジャドウがコソッと呟いた。
「(ヴァイザスの奴、お前のオーラにヤラれてたみたいだぜ)」
「(そっか。わいの力にビビったんやな…)」
ボブは不敵な笑みを浮かべる。
ヴァイザスの帰宅後、メオスが慌てて駆け込んで来た。
「オヤジ、大変だ!」
「どうした?」
焦っているメオスに対して、ヴァイザスは動じない。
「誰だかわかんねェけど、オヤジの正体を暴いてディスってる奴がいるんだよ!」
その時、メオスの顔をめがけて手紙が投げ付けられる。
「何だ………3日後の貴殿のラトルスのライヴ会場にて、何かが起こります。お楽しみに………って、マジ危ねェよ、オヤジ!」
メオスが目を丸くして、ヴァイザスの腕にしがみつく。
ヴァイザスはフッと不気味な笑みを浮かべる。
「これもまた一興さ………」
その時、メオスの頭の中の糸がプツンと切れた。
「一興、一興って、今まで危ねェことばかりじゃんかよ。オレは反対だ!」
「せっかくのライヴなんだからな」
メオスは何度も短文の手紙を読み返す。
「ていうかコレ、ボブからなんじゃねェのか?」
「それこそまた一興じゃねぇか!要するに俺の命を狙ってるんだろ?面白れぇ!!」
ヴァイザスは大声を出して笑い出した。
メオスは椅子を倒しながら、急に立ち上がった。
「オヤジの命を狙ってるって!?じゃぁオレはむしろ大反対だ!!」
「うるせぇな!メンバーも観客もいるのに、主役がいねぇんじゃお話にならねぇじゃんか」
ヴァイザスは、たった今の高笑いから、態度を豹変させて、紅い瞳を光らせてメオスを睨みつける。
(オヤジの目つきが………変わった!?)
メオスはヴァイザスの目つきに殺意を感じた。
しかしメオスは何かを決意して、深く深呼吸をして、歯を食いしばりながらじっと構えた。
「オヤジ………何があっても行くってんなら、今オレを殺るくらいでかかって来いよ!!」
ヴァイザスは立ち上がり、ゆっくりとメオスの方に向かう。
メオスはじっと構えたままである。
すると、みるみるうちにヴァイザスの身体が超魔族化をした。
「これが………オヤジの正体………!?」
メオスは冷や汗をかいて、あ然としている。
ヴァイザスは一瞬でメオスのお腹を蹴る。
「マジでやりやがったな、このク…ソ……オヤ………ジ……………!」
「悪ぃ、メオス。俺の本体がバレてしまったんでな。これで地上の奴らは残せなくなった。ボブの奴も覚悟しとくんだな………!」
ヴァイザスは倒れたメオスに目配せをして、ライヴ会場であるラトルスの街へ羽ばたいて行った。
そして3日後、ライヴの日がやって来た。
ヴァイザスは魔族の姿に戻り、仲間にやや興奮気味に話し始めた。
「………俺は、この日をずっと待っていた。俺が守ってやるから、みんな安心して演(や)ってくれよな!」
「アニキ………ホントに大丈夫なのかよ?!」
ファルコンは立ちあがる。
「わからん………だが、お前達は必ず守る。それだけは忘れないでくれ」
ヴァイザスの瞳が緑色に一瞬光る。
「わかった」
無口なムークはパイプを吹かしながら、深く頷いた。
ジャドウは冷や汗をかきながら、慌てて席を離れる。
「あ、ああ。ちょっとトイレ」
(ジャドウの奴、キナ臭ぇな…)
ファルコンが訝しげにジャドウが走り出す姿を見つめる。
ジャドウはボブと待ち合わせをした。
「こ、これは………」
ジャドウは何かを見つめて挙動不審になった。
「これならヴァイザスもひとたまりもないやろ」
「本気か?ボブ?!」
「なぁに、これを使えば、わいらは正義の味方や!」
ジャドウはあ然とする。
「おーい、ジャドウ、どこにいるんだよ!」
ファルコンの声が響く。
「ほな、わいはここで」
ボブは一瞬で消え去る。
「何やってんだ、ジャドウ、もうすぐ時間だぜ」
「ああ………」
ファルコンはますますジャドウの行動に不審感を抱いた。
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