3.騒然のライヴ、そして………

1/1
前へ
/35ページ
次へ

3.騒然のライヴ、そして………

ーラトルスの街ー  人間界では有数の栄えた街として知られている。音楽やダンスなどのパフォーマンスを年中無休で行っており、美術館や博物館も立ち並んでいる。  ライヴ会場は、賑わいと戸惑いでいっぱいだった。    ファンが見たのは、ペンライトに3つの輪っかが付いていた。 「なぁ、今日のペンライト何かおかしくないか??」 「何か嫌な予感しかしないな………」  怖いもの見たさのアンチもこぞって集まり、ライヴ開演のブザーが鳴り響く。  ヴァイザスが超魔族の姿で現れると、会場は一気に騒然とし始めた。  久しくもヴァイザスが小刻みに震えている。 「みんな、今日はイヤに………殺気立ってるな。ハハハッ。俺、そういうの好きだぜ。俺のことは煮るなり焼くなり好きにしてくれ!!」  アンチが叫び出した。 「この悪魔め!」  ヴァイザスは何故か嬉しそうにリクエストに応えた。 「おう、早速リクエストが出たな。みんな、行くぜ!!「DEVIL」!!」  ライヴが進む中、ファンとアンチで揉み合いが続く。  1人の観客がペンライトを動かすと、ヴァイザスの頬にかすり傷が付いた。  ファンが不審に思った。 「アレ?フツーにペンライト振っただけでヴァイザスが………?!」  ファンの1人が叫ぶ。 「おーい!このペンライト、振っちゃダメだ!!」  他のファンが戸惑った。 「え?何かあるの?」 「あれが見えないのか?ヴァイザスの身体が傷ついて来てるぞ!?」 「ヴァイザスー、大丈夫ー?」 「ボブのディスりなんて負けんなよ!」  ファンはペンライトを座席に置くが。ペンライトはヴァイザスに向かって光を発して行く。 「何だ!?ペンライトを置いたのに………一体どうなってるんだ??」  ファンが不思議そうにヴァイザスを見つめる。  今度はアンチが煽りをかけて来た。 「何だよ、バケモンのくせに」  アンチがペンライトを振り回す。 「こんな奴、やっちまえ!!」  アンチはペンライトを次々と振り回し、ファンはそれを制止しようと揉みくちゃになる。 「うるせぇ!ヴァイザスはヴァイザスだ!」 「コロッとボブの方に逃げる奴なんて、本当のファンじゃない!!」 「ヴァイザスは俺達にとってダークヒーロー的な存在なんだ!!」  アンチも負けじとペンライトを振り回しながら拮抗する。 「ダークヒーローなんて言葉、今更有るか!!」  ヴァイザスは異変に気付き始めた。 (何だこの傷は………?光だ!きっとボブの野郎だな………こんなかすり傷くらい!) 「俺が好きな番号だ。6番目「HELL」!!」  ジャドウが出だしを間違える。 「わりぃ、もう1回だ」  ヴァイザスはチッと舌打ちをする。 (凡ミスしやがって…!!)  曲が始まると、警備をノックアウトして、ステージにペンライトを投げ付ける客が倍増した。  ファンとアンチが揉み合いになっている間、怒声は止まらなかった。 「ヴァイザスに何するの!」 「ペンライト振るんじゃねーよ!」 「アンチヴァイザスは出てけ!」  その間にヴァイザスの身体がどんどん傷付く。  ヴァイザスが魔笛を出した瞬間、何者かがサッと魔笛を盗んだ。 「コイツはいただくで!」 「待てコラ!!」  誰かがヴァイザスの頭を踏みつけて、白い翼で逃げた。 (あの白いオーラ、話し方………ボブしかいねぇだろうな………クソッ!!)  ヴァイザスはメンバーに演奏停止のサインを出した。 「みんな、悪ぃ。笛が………笛が………無くなっちまった」  ヴァイザスは半ばうなだれる。 「笛が無いヴァイザスなんてヴァイザスじゃねぇ!」  ファンの1人の怒号が、空しく会場に響く。 「だが、続行する。HELLだったな!俺の一番好きな曲だ!笛がねぇ分、盛り上がってくれ!!」  ヴァイザスは光の攻撃を受けながら、歌い続けた。 「良くここまで来れたぜ!おっと、よろめいちまったな………これで最後だ。「DEAD」!!」  ヴァイザスは度々よろめき、息を途切れさせながら歌い切った。 「はぁ、はぁ…はぁ………いや、これヘヴィだったぜ。だけどスリリングで嬉しかったぜ!じゃあな!!」  ステージを去り、楽屋へ戻る。途中、ヴァイザスの黒い吐血がところどころで出る。  ファルコンとムークが介抱する。 「アニキ!」 「大丈夫だ、ファルコン」 ー楽屋にてー 「はぁ、はぁ、はぁ………予想外に傷付いちまった」 「アニキ、命からがらじゃねぇか!」 「まぁな…」  ジャドウがガクガクと震えながら、重い口を開けた。 「お、俺、今までこんなバケモンと組んでたなんて、おっかないぜ!ギターは降ろさせてもらう。じゃ!」  その時、ヴァイザスがジャドウの腕を折り、爪で腕を引っかく。 「いててっ!!」 「ジャドウ、テメェ俺が何も知らねぇと思ってたのか?バカめ。あのペンライト作ったのも、HELLで最初にズッコケたのも、ボブとのグルだろ?」  ヴァイザスは蛇の様にジャドウを睨みつける。 「ひ、ひぃぃ!!」 「息子のメオスに引導を渡してやるからな。首長くして待ってろ。とっとと出てけ!」  ジャドウは慌てて楽屋から出た。 「ファルコン、ムーク、済まなかった。だが俺は、嬉しかったぜ。さっき話した通り、俺の息子、メオスがいる。住んでる所がマグマに近いから、お前らは行けんかも知れんが………はぁ………メオスに………会った暁には………頼んだ………ぜ……………」  ヴァイザスは遺言を残して、息絶えた。  ファルコンが泣き叫ぶ。 「アニキーーーっ!」 「ヴァイザス………」  ムークは悔しそうに、冷たくなったヴァイザスの手を組む。 「ジャドウの野郎、今からでも………!!」  立ちあがるファルコンをムークが止める。 「待て。メオスに託したんだ。俺達はメオスが来るのを待つしかない」 「グッ………仕方ない、子ども達にも協力させよう」 「ああ」  楽屋は、沈痛な雰囲気に包まれた。 ー楽屋の廊下にてー (俺は楽屋に入れないが………ヴァイザスが死んじまったのか………。ファンには申し訳ないが、拡散するしかないな………)  楽屋の外で、何者かがヴァイザスの死の真相をネットに拡散した。  ヴァイザスの死は、世界中のファンを哀しみで包み、アンチには朗報として伝わった。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加