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3.騒然のライヴ、そして………
ーラトルスの街ー
人間界では有数の栄えた街として知られている。音楽やダンスなどのパフォーマンスを年中無休で行っており、美術館や博物館も立ち並んでいる。
ライヴ会場は、賑わいと戸惑いでいっぱいだった。
ファンが見たのは、ペンライトに3つの輪っかが付いていた。
「なぁ、今日のペンライト何かおかしくないか??」
「何か嫌な予感しかしないな………」
怖いもの見たさのアンチもこぞって集まり、ライヴ開演のブザーが鳴り響く。
ヴァイザスが超魔族の姿で現れると、会場は一気に騒然とし始めた。
久しくもヴァイザスが小刻みに震えている。
「みんな、今日はイヤに………殺気立ってるな。ハハハッ。俺、そういうの好きだぜ。俺のことは煮るなり焼くなり好きにしてくれ!!」
アンチが叫び出した。
「この悪魔め!」
ヴァイザスは何故か嬉しそうにリクエストに応えた。
「おう、早速リクエストが出たな。みんな、行くぜ!!「DEVIL」!!」
ライヴが進む中、ファンとアンチで揉み合いが続く。
1人の観客がペンライトを動かすと、ヴァイザスの頬にかすり傷が付いた。
ファンが不審に思った。
「アレ?フツーにペンライト振っただけでヴァイザスが………?!」
ファンの1人が叫ぶ。
「おーい!このペンライト、振っちゃダメだ!!」
他のファンが戸惑った。
「え?何かあるの?」
「あれが見えないのか?ヴァイザスの身体が傷ついて来てるぞ!?」
「ヴァイザスー、大丈夫ー?」
「ボブのディスりなんて負けんなよ!」
ファンはペンライトを座席に置くが。ペンライトはヴァイザスに向かって光を発して行く。
「何だ!?ペンライトを置いたのに………一体どうなってるんだ??」
ファンが不思議そうにヴァイザスを見つめる。
今度はアンチが煽りをかけて来た。
「何だよ、バケモンのくせに」
アンチがペンライトを振り回す。
「こんな奴、やっちまえ!!」
アンチはペンライトを次々と振り回し、ファンはそれを制止しようと揉みくちゃになる。
「うるせぇ!ヴァイザスはヴァイザスだ!」
「コロッとボブの方に逃げる奴なんて、本当のファンじゃない!!」
「ヴァイザスは俺達にとってダークヒーロー的な存在なんだ!!」
アンチも負けじとペンライトを振り回しながら拮抗する。
「ダークヒーローなんて言葉、今更有るか!!」
ヴァイザスは異変に気付き始めた。
(何だこの傷は………?光だ!きっとボブの野郎だな………こんなかすり傷くらい!)
「俺が好きな番号だ。6番目「HELL」!!」
ジャドウが出だしを間違える。
「わりぃ、もう1回だ」
ヴァイザスはチッと舌打ちをする。
(凡ミスしやがって…!!)
曲が始まると、警備をノックアウトして、ステージにペンライトを投げ付ける客が倍増した。
ファンとアンチが揉み合いになっている間、怒声は止まらなかった。
「ヴァイザスに何するの!」
「ペンライト振るんじゃねーよ!」
「アンチヴァイザスは出てけ!」
その間にヴァイザスの身体がどんどん傷付く。
ヴァイザスが魔笛を出した瞬間、何者かがサッと魔笛を盗んだ。
「コイツはいただくで!」
「待てコラ!!」
誰かがヴァイザスの頭を踏みつけて、白い翼で逃げた。
(あの白いオーラ、話し方………ボブしかいねぇだろうな………クソッ!!)
ヴァイザスはメンバーに演奏停止のサインを出した。
「みんな、悪ぃ。笛が………笛が………無くなっちまった」
ヴァイザスは半ばうなだれる。
「笛が無いヴァイザスなんてヴァイザスじゃねぇ!」
ファンの1人の怒号が、空しく会場に響く。
「だが、続行する。HELLだったな!俺の一番好きな曲だ!笛がねぇ分、盛り上がってくれ!!」
ヴァイザスは光の攻撃を受けながら、歌い続けた。
「良くここまで来れたぜ!おっと、よろめいちまったな………これで最後だ。「DEAD」!!」
ヴァイザスは度々よろめき、息を途切れさせながら歌い切った。
「はぁ、はぁ…はぁ………いや、これヘヴィだったぜ。だけどスリリングで嬉しかったぜ!じゃあな!!」
ステージを去り、楽屋へ戻る。途中、ヴァイザスの黒い吐血がところどころで出る。
ファルコンとムークが介抱する。
「アニキ!」
「大丈夫だ、ファルコン」
ー楽屋にてー
「はぁ、はぁ、はぁ………予想外に傷付いちまった」
「アニキ、命からがらじゃねぇか!」
「まぁな…」
ジャドウがガクガクと震えながら、重い口を開けた。
「お、俺、今までこんなバケモンと組んでたなんて、おっかないぜ!ギターは降ろさせてもらう。じゃ!」
その時、ヴァイザスがジャドウの腕を折り、爪で腕を引っかく。
「いててっ!!」
「ジャドウ、テメェ俺が何も知らねぇと思ってたのか?バカめ。あのペンライト作ったのも、HELLで最初にズッコケたのも、ボブとのグルだろ?」
ヴァイザスは蛇の様にジャドウを睨みつける。
「ひ、ひぃぃ!!」
「息子のメオスに引導を渡してやるからな。首長くして待ってろ。とっとと出てけ!」
ジャドウは慌てて楽屋から出た。
「ファルコン、ムーク、済まなかった。だが俺は、嬉しかったぜ。さっき話した通り、俺の息子、メオスがいる。住んでる所がマグマに近いから、お前らは行けんかも知れんが………はぁ………メオスに………会った暁には………頼んだ………ぜ……………」
ヴァイザスは遺言を残して、息絶えた。
ファルコンが泣き叫ぶ。
「アニキーーーっ!」
「ヴァイザス………」
ムークは悔しそうに、冷たくなったヴァイザスの手を組む。
「ジャドウの野郎、今からでも………!!」
立ちあがるファルコンをムークが止める。
「待て。メオスに託したんだ。俺達はメオスが来るのを待つしかない」
「グッ………仕方ない、子ども達にも協力させよう」
「ああ」
楽屋は、沈痛な雰囲気に包まれた。
ー楽屋の廊下にてー
(俺は楽屋に入れないが………ヴァイザスが死んじまったのか………。ファンには申し訳ないが、拡散するしかないな………)
楽屋の外で、何者かがヴァイザスの死の真相をネットに拡散した。
ヴァイザスの死は、世界中のファンを哀しみで包み、アンチには朗報として伝わった。
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