カゲノコチャン

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 わたしはどうしてか、このことを中学二年まで忘れていたのです。そのことを思い出してぞっとして、家に帰って押し入れを漁りました。捨てた記憶はなかったので、どこかにあると思ったんです。  押し入れの一番奥、透明のプラケースの中にそれはありました。表紙を見て思わず叫びそうになりましたよ。  いないんです。カゲノコチャン……いえ、アイチャンが。  確か表紙には黒一色のカゲノコチャンのイラストが描かれていたはずなのに、真っ白でした。震える手でページをめくると……やっぱりどのページにもアイチャンの姿はありませんでした。  アイチャンは絵本から飛び出し、同じ名前の子にとりついていたんだと思いました。しかも当時のわたしはよほどアイチャンが好きだったのか、タイトルもページ内にある『カゲノコチャン』という文字も、黒マジックで塗りつぶし『アイチャン』と書きかえていたんです。  大変なことになったと思いました。迂闊にも絵本のキャラクターに名前を与えてしまったことによって、魂を宿らせてしまったのです。
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